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米関税がアジアの貿易と発展に影響を及ぼし得る理由

関税をめぐる不確実性がアジア市場に与える影響と、アジア全域で代替貿易協定の進展を加速させる可能性について考察します。

Asia Pacific Head of Fixed Income, Head of SSGA Singapore

2025年4月初め、トランプ米大統領は米国への輸入品に対する新たな関税政策を導入しました。それらの関税政策の最終形態は不明ですが、貿易フローや製造企業のセンチメントへの影響がすでに現れつつあります1

トランプ大統領が発表した関税率は市場によって大きく異なり、中国など一部のケースでは懲罰的に高い水準でした。それに対し、中国は特定の米国製品の輸入に対する報復関税を導入しました。本稿執筆時点で、米国が中国からの輸入品に課す関税率は145%となっている一方、中国は米国からの輸入品に125%の関税を課しています。こうした異例の高関税率は、これら二国間における事実上の禁輸措置といえます。米中間の関税協議は今後も継続され、最終的な税率が引き下げられるかどうかは依然として不明です2

米関税をめぐる状況は依然流動的

高いレベルの不確実性と世界貿易への潜在的打撃は、株式・債券市場にボラティリティを引き起こしています。こうした厳しい状況を受け、トランプ大統領は、全地域とほとんどの品目に対する一律10%の関税を維持する一方、上乗せ関税の適用を90日停止することを発表しました3。この一時停止と、半導体やスマートフォンなど国内調達が困難な特定の品目に対する一連の免除措置が投資家の不安を和らげ、ほとんどの株式市場は関税発表後の下落分の一部を回復しています4

関税がアジアに与える影響は?

関税の影響はほとんどの地域にとってネガティブですが、アジア全域に一様に広がっているわけではありません。サプライチェーンの変化に伴い、予期せぬ恩恵もあるかもしれません5。とはいえ、全体的には、影響はネガティブなものとなりそうです。米国の新たな関税の発表を受け、国際通貨基金(IMF)は今年の世界のGDP成長率予測を1月時点の3.3%から2.8%に引き下げ、来年の成長率予測も3.3%から3.0%に下方修正しました6。2025年のASEAN市場の成長率予測も4.6%から3.9%に0.7ポイント下方修正されました7。IMFはまた、貿易戦争は米国の物価上昇と生産性低下を招き、貿易相手国では需要が減少するだろうと指摘しました。全体的に、成長率予測が最も大幅に下方修正されたのは米国と中国でした。貿易摩擦が緩和した場合は、成長見通しは直ちに改善するとIMFは述べています8。実際、中国9、韓国、タイ、マレーシア、インドネシアでは既に工場の操業低下がみられる一方、インドは緩やかな拡大を維持しています10

アジア各国政府は不確実性にどう対応しているのか?

一つの明確な結果として、新たな貿易圏の形成と地域協力拡大に向けた動きが加速しています。2025年5月にミラノで開催されたアジア開発銀行の年次会議で、ASEANプラス3(ASEAN 10ヵ国と日本・中国・韓国)は、東アジア地域包括経済連携(RCEP)の実施を全面的に支持することで合意しました11。RCEPは、インド洋地域の15ヵ国間における自由貿易協定で、参加国全体で世界人口の半分以上を占めています12

欧州連合(EU)も、米関税の影響に対処すべく、アジアでの新たな貿易協定の締結に向けた取り組みを強化しています13。通常、新たな貿易協定の取りまとめと施行には長い時間を要します。同様に、サプライチェーンへの適応や変更も一朝一夕には成しえません14

関税の影響はまちまち

新たな関税への対応力は市場によって異なります。例えば、中国は潜在的影響を緩和するために活用できる政策手段をいくつか持っています15。中国当局は、輸出の減少による経済への打撃を和らげるため、国内消費と技術開発の促進に注力しています16。ベトナムやカンボジアなど比較的小規模な国々は、取れる選択肢がより少なく、関税引き下げを求めて米国と直接交渉しようとしています17

また、製品の真の原産地を隠蔽し、関税を回避するための迂回輸出や「洗浄」が行われている証拠もあります18。アジア全域で、一部の製造業者は、関税の影響を受ける米国に代わる製品輸出先として中南米や中東の新市場の開拓を模索しています19

様々な課題にもかかわらず、アジアの現地通貨建て債券は底堅さを発揮

当初は関税発表を受けたネガティブなセンチメントに屈したものの、投資家がアジア地域の金利のさらなる引き下げを期待するなか、同地域の債券はその後力強い回復を見せています20。このため、短期的には債券の発行と投資の妙味が増しています。追加的な支援要因となる可能性が高いのは、米通商政策への懸念による米ドル安です21。世界貿易システムの再構築と、関税戦争がどのように終結するかは、アジア地域全体の市場にさまざまな影響をもたらすでしょう。

このような不確実性を踏まえると、アジアの現地通貨建て債券で構成される分散型ポートフォリオは、特定の信用リスクや市場リスクからの影響を抑えつつ、同地域の成長見通しへのエクスポージャーを求める投資家にとって魅力的な選択肢となるでしょう。

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