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なぜアジアの債券市場は多様な投資機会を提供できるのか

アジアの債券は、しばしば単一のセクターとして捉えられがちですが、詳しく見てみると、この地域およびその債券(固定利付)市場は非常に多様であることが分かります。

Asia Pacific Head of Fixed Income, Head of State Street Investment Management Singapore

アジアの市場は、それぞれ異なる経済発展の段階にあります。シンガポールのように成熟した市場もあれば、ベトナムのように発展の初期段階にある国もあります。こうした違いは当然ながら、各国・地域のファンダメンタルズの差異に加え、政策運営や中央銀行の金融政策スタンスの違いにも反映されています。本稿では、これらの市場がどのように異なるのかを整理するとともに、中期的な経済見通しについて考察します。

中国 - 慎重ながらも前向きな見方

中国は現在、比較的高い若年層の失業率、低迷する国内消費、そして不安定な不動産セクターといった課題に直面しています。中国では長年、不動産が「資産保全の手段」と見なされてきました。不動産価格が上昇すると、人々は資産が増えたと感じ、消費意欲も高まりました。しかし残念ながら、この「資産効果」は、不動産価格が下落すると逆方向に働く可能性もあります。国際通貨基金(IMF)は2025年12月、中国の不動産セクターを立て直すには、経済的に成り立たないデベロッパーを市場から退出させるため、政府の介入が必要になると推計しました。そのためには約3年を要し、コストは中国の国内総生産(GDP)の約5%に相当すると見込んでいます1

さらに、中国の社会保障セーフティネットは、先進国と比べて手厚いとは言えません。このため、人々は現在の消費を増やすよりも、将来に備えて貯蓄を優先する傾向があります。一方で、国内問題とは対照的に、中国の輸出セクターは、米国との関税を巡る緊張が続く中でも力強い成長を遂げています。こうした状況を受け、中国の政策当局は最新の5カ年計画において、国内消費を促進するための追加施策を打ち出しました。これにより、中国が輸出主導型から、財・サービスの国内消費がより大きな比重を占める、よりバランスの取れた経済へと移行することが期待されます。

一方、中国の現地通貨建て債券市場の規模は、アジア域内の他の国・地域を大きく上回っています。2025年9月末時点で、発行残高は約24兆米ドルに達しました2。比較のために言えば、新興東アジア地域全体の現地通貨建て債券残高は約29.5兆米ドルにとどまります。域内で最も小さい債券市場はベトナムで、現地通貨建て債券の発行残高は約1,360億米ドルにすぎません3。このような市場規模の大きな格差を踏まえ、iBoxx ABF 汎アジア指数では、中国への投資比率の上限を25%に設定しています4。これは、集中リスクが過度に高まるのを防ぎ、投資家により幅広く分散された投資機会を提供するためです。

米国債利回りがアジア債券市場に与える影響

歴史的に見ると、アジアの多くの中央銀行は、米国の金利動向に追随してきました。債券投資家を呼び込むためには、十分な利回りを提供するとともに、インフレを抑制し、急激な通貨安を回避する必要があったためです。しかし過去1年ほどの間に、一部のアジア市場ではこの行動に変化が見られています。政策当局や中央銀行は、投資家を引きつけ、インフレを抑えるのに十分な水準でありながら、国内経済の成長を損なうほど高くはない金利水準を模索しています。

現在、米国の金利は低下基調にありますが、各市場が利下げを進めるペースにはばらつきがあります。このスペクトラムの一方の端にあるのが中国で、過去12カ月間、主要政策金利をほぼ据え置いてきました。一方、もう一方の端では、フィリピンのような比較的小規模な市場が、これまでに5回の利下げを発表しています。

通貨が株式市場の強さと連動しなくなる動き

韓国など一部の市場では、通貨と株式市場の強さとの相関関係が切り離される動きが見られています。これまで、株式市場が上昇または下落すれば、その国・地域の通貨も概ね同様に上昇・下落する傾向がありました。しかし、韓国の株式市場は2025年に76%上昇した一方で、通貨である韓国ウォンはわずかに下落しました5。このような状況は異例であり、今後も続くとは限りません。その背景として考えられるのは、特定の株式市場が、人工知能(AI)分野の発展に対する投資家の期待によって押し上げられていることです。特に、半導体チップ製造における韓国の高い競争力が注目されています。

もっとも、すべての市場でこうした相関関係が失われているわけではありません。2026年2月初旬、米格付け会社ムーディーズは、財政赤字、資本フロー、そして長期化する通貨安への懸念を理由に、インドネシアの信用見通しを「安定的」から「ネガティブ」に引き下げました。これを受け、インドネシアの株式市場と通貨ルピアは同時に下落しました。

債券投資家と株式投資家は一般的に異なる投資目的を持っていますが、フィリピンのような国・地域では、株式市場が好調な場合、より高いリターンを求めて投資家が債券から株式へと資金を移すことがあります。こうした債券需要の低下は、結果として利回りの上昇につながります。

地域内で異なる経済成長率の見通し

IMF(国際通貨基金)が2026年1月に公表した『世界経済見通し(World Economic Outlook)』では、2026年における各市場の実質GDP成長率が予測されています。それによると、中国の成長率は4.5%、新興・発展途上の東アジア全体では5.0%の成長が見込まれています。その中でも、いくつか興味深い違いが見られます。韓国の成長率は1.9%、タイは1.6%と予測されている一方で、インドネシアは5.1%、マレーシアは4.3%、フィリピンは5.6%の成長が見込まれています6。実質GDPは重要な指標ではあるものの、成長のペースは各国・地域の経済発展段階によって左右されます。規模の大きい経済は高い成長率を持続することが難しい一方で、規模の小さい経済は小さな基盤から拡大していくため、高い成長率が実現しやすい傾向があります。

アジア債券市場は引き続き魅力的な投資機会を提供

アジアの現地通貨建て債券市場は、世界でも最も高い成長率を誇る経済圏の恩恵を享受したい投資家にとって、引き続き重要な投資の入口となっています。国や地域によっては課題が浮上する可能性もありますが、分散投資を行うことで、特定の市場やセクター、さらには個別企業に過度に依存することなく、地域全体に広がる投資機会にアクセスすることが可能です。さらに、2025年の米国との貿易摩擦の局面において、これらの市場が示した底堅さは、すべてではないにせよ、その大半が今後も成長と発展の軌道を歩み続ける可能性が高いことを示唆しています。