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アジアの多様な債券を展望する

アジアの債券市場は多層的であり、投資家は現地通貨建て債券やハードカレンシー建て債券を通じて、さまざまな投資機会へのエクスポージャーを得ることができます。

Asia Pacific Head of Fixed Income, Head of SSGA Singapore

市場参加者やメディアは時に、アジア債券をひとくくりに捉えることがあります。しかし、アジアの中でも国によって経済や規制の発展状況は異なるため、アジア債券市場を詳しく見ることで、さまざまな投資家のタイプや債券発行があり、多様性に富んだ市場であることが分かります。

例えば、東アジアの現地通貨建て債券発行残高は、2023年9月末時点で23兆5,000億ドルでした1。 このうち、14兆7,000億ドルは国債、8兆3,000億ドルは社債、残りの5,000億ドルは金利を管理する目的で発行された中央銀行債などです2

対照的に、ハードカレンシー債券(外貨建て債券)の発行残高は、現地通貨建て債券を大幅に下回ります。2023年第3四半期の発行額を見ると、現地通貨建て債券の2兆5,000億ドルに対し、ハードカレンシー債券は411億ドルでした3

東アジアでは、韓国や中国といった先進国でハードカレンシー債券が多く発行されています。その国で事業を展開する企業が、海外産の製品やサービスのために多くの資金調達をする必要があるからです。これらの債券は外国人投資家を対象としているため、この方法で資金を調達できるのは、十分に強固な信用プロファイルを持つ企業となる傾向があります。

現地通貨建て債券とハードカレンシー債券の構成

一方で、インドネシアのような発展途上国では、ハードカレンシー債券に対する外国人投資家の需要は高くありません。その差は非常に大きく、2023年第3四半期に韓国では152億ドルのG3通貨(米ドル、ユーロ、日本円)建て債券が発行されましたが、インドネシアでは6億5,800万ドルの発行にとどまりました。同期間に、カンボジア、ラオス、フィリピン、ベトナムではG3通貨建てハードカレンシー債券はまったく発行されませんでした4

さらに、アジアの債券市場全体に占めるハードカレンシー債券の発行比率は、欧米に比べて低くなっています。2022年には、アジア全体で発行されたすべての債券のうちハードカレンシー債券は12.6%を占めましたが、アジアを除く世界全体では平均で約36%でした5。これは、多くのアジア企業が借入ニーズを国内で満たそうとしていることが理由ですが、企業が資金調達の方法を決定する要因はさまざまです。年金基金のような国内投資家は、為替リスクがなく、自らの負債に見合う現地通貨建て債券を好む傾向があります。

サステナブル債券の発行は、増加し続けている

サステナブル債券は、グリーンボンド、ソーシャルボンド、サステナビリティボンド、サステナビリティ・リンク・ボンドとも呼ばれ、一般的に、電力網の改善や廃棄物処理システムの強化といった、さまざまなインフラプロジェクトの資金調達のために発行されます6。例えば、アジアインフラ投資銀行は過去5年間に総額200億ドルを超える債券を発行しており、2024年1月にも30億ドルの債券を追加発行しました7。サステナブル債券発行の内訳は、現地通貨建てが約70%、ハードカレンシー建てが約30%です。

アジア太平洋地域のサステナブル債券市場の規模は、2024年に約10%成長して2,600億ドルになる見通しです8。同様のレポートで、S&Pは世界市場が約1兆ドルに達すると予想しており、世界全体に占めるアジアのシェアは拡大する可能性があります9

現地通貨建て国債の主な投資家

さらに掘り下げると、現地通貨建て国債に投資しているのは主に、銀行、資産運用会社、年金基金、保険会社、中央銀行に分けられます。投資家の構成は、国によって異なります。例えば、中国では、現地通貨建て国債の主な保有者は銀行で62%を占めます。一方で、タイの銀行は全体の24%しか保有しておらず、保険会社と年金基金が大きな役割を果たしています10

エコノミストや投資家の間では、バランスの取れた投資家構成は市場の効率と競争力の向上につながるという見解で概ね一致しています。市場の集中度を測る一般的な方法として、ハーフィンダール・ハーシュマン指数(HHI)があります。指数値が高いほど、投資家プロファイルが分散されていないことを示します。アジア開発銀行の最近の分析によると、ベトナムと中国はハーフィンダール・ハーシュマン指数が高く、幅広い投資家で構成されているインドネシアは低いという結果になり、韓国も同様でした11

2024年末にかけての市場動向

マクロ経済の観点で見ると、アジアの現地通貨建て債券市場は、特に一部の債券で、ユーロ圏などの他の地域と比較して、良好な利回りが予想されることから、引き続き投資妙味があると思われます。ハードカレンシー債券市場では、スプレッドを考えると政府発行債が魅力的に見えます。

課題もあり、ドル高と、それが特にアジア新興国のインフレにどのような影響を及ぼすかについて留意する必要があります。また、中国の中期的な動向にも、注視しています。懸念材料としては、一部の不動産開発業者や地方政府の債務水準、個人消費の低迷などが挙げられます。とはいえ、政府には財政刺激策で使える選択肢がいくつかあります。これにより、中国はこの先に潜んでいる障害を、切り抜けられる可能性が十分にあります。

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