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Insights

アジア債券のポジティブな見通しを支える要因 | PAIF

私たちは、堅調な成長、変化する貿易パターン、通貨の底堅さ、信頼性の高い枠組みなど、アジア債券市場を支えるテーマを取り上げます。

Kheng-Siang Ng, CFA, CAIA
Asia Pacific Head of Fixed Income, Head of State Street Investment Management Singapore

貿易摩擦、地政学的な不確実性、金融政策の方向性の相違といった課題があるにもかかわらず、アジア経済は2025年に概ね堅調な経済成長を示しました。インフレの緩和や金利低下といった支援的なテーマは、2026年に向かうにつれて、アジアの現地通貨建て債券に引き続きポジティブな追い風を提供すると見込まれます¹。

また、2025年には多くのアジア市場で現地通貨建て債券価格が上昇しました²。とりわけ中国とシンガポールで年間を通じて発行が活発であり³、投資家が米ドルへの依存を減らし、分散を図る動きが強まりました。

貿易摩擦が米ドルのボラティリティを誘発

2025年4月、トランプ大統領が発表した「リベレーション・デー(解放の日)関税」は、株式市場と債券市場に不安を引き起こしました。実際、一部の地域に対する関税は極めて高水準で、貿易が停止しかねないほどでした。その後数か月の間に、複数の政府が米国と交渉し、当初案より大幅に低い水準の関税を受け入れています⁴。

また、この「リベレーション・デー」発表をきっかけに、投資家は米ドルが安全資産であるという長年の見方に疑問を持ち始めました。米ドルが新たに不確実性と結び付いたためです。その結果、米ドルは弱含み、多くのアジア通貨が急速に上昇しました⁵。米ドルを含む米国資産への需要の低下は「脱ドル化」と呼ばれ、中国の人民元などの他通貨が国際マネー市場で着実にシェアを拡大しています⁶。

混乱の中でもアジアは堅調な経済成長を維持

米国の関税によって貿易構造が混乱したにもかかわらず、アジア市場は依然として力強い経済成長を示しました。アジア開発銀行(ADB)は最近、2025年の「発展途上アジア」の成長見通しを5.1%へと上方修正しました⁷。しかし、関税の影響や世界経済の減速が地域に波及するにつれ、2026年の成長率は4.6%に低下すると見込んでいます。
一方、国際通貨基金(IMF)は、2026年の実質国内総生産(GDP)成長率を、米国で2.1%、ユーロ圏で1.1%、世界全体で3.1%と予測しています⁸。

中国は米国からの転換に成功

最近の緊張にもかかわらず、中国は2025年も堅調な輸出を維持しました。これは、貿易の方向性を米国から欧州連合(EU)やその他の市場へと振り向けたためです。2025年11月末までの前年比で、中国の対米輸出は29%減少した一方、欧州連合向け輸出は14.8%増加しました⁹。

多くのアジア通貨が底堅さを示す

米ドル指数(DXY)は、米ドルを主要通貨バスケットに対して測定する指標ですが、2025年に 9%以上下落し、2017年以来最悪のパフォーマンスとなりました¹⁰。こうした相対的な弱さは、米国の財政見通しや貿易関税の経済的影響など、さまざまな要因によって引き起こされたものです。その結果、2025年には多くのASEAN通貨が対米ドルで適度に上昇しました¹¹。

また、米連邦準備制度(FRB)が1年を通して利下げを行ったことにより、アジアの中央銀行は過度なインフレを引き起こすことなく、国内需要を刺激するために借入コストを引き下げる余地を得ました¹²。さらに、いくつかのアジア市場の金融当局は、自国経済を支援するためのターゲット型の対策を実施しました¹³。

信頼性のある金融規制および法的枠組み

シンガポールなど複数のアジア債券市場は、現在、米国、英国、日本などの市場よりも高い格付けを獲得しています。格付けは投資家が判断する際の唯一の要素ではありませんが、こうした市場の相対的な魅力を高める効果があります¹⁴。こうした格付けの変化は一部、西側諸国における財政規律の欠如を反映しており、低成長と歳出増加への懸念を背景に、債務対GDP比が悪化していることが要因です¹⁵。もう一つの要因は、アジアの中央銀行が示してきた財政の健全性と責任ある金融政策の決定です¹⁶。

このような動きは、アジア諸国が過去に貿易黒字を米国資産、特に米国債に再投資してきた長期的なトレンドからの乖離を示すものです¹⁷。これは「脱ドル化」という概念を裏付けるものであり、貿易取引が米ドルから離れ、他通貨による取引へ移行していることを意味します¹⁸。

アジアの現地通貨建て債券を支えるポジティブ要因は今後も続く見込み

2026年が進むにつれ、アジアでは金利の低下基調が続くと予想され、同地域の債券にとって支援材料となるでしょう。相対的に安定した現地通貨も、ハードカレンシー建てやG3通貨建ての発行に比べ、国内債券の魅力を高めています。ただし、関税による貿易の混乱、地政学的リスク、中国国内の成長鈍化といった不確実要因にも注意を払っています¹⁹。

総じて、現地通貨建て債券をポートフォリオに組み入れることは、株式市場やハイイールド債市場と比較して、相対的な安定性を保ちながら収益を求める投資家にとって、通貨面および信用面の両方でさらなる分散効果をもたらします。