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景気循環要因と構造的な追い風のはざまで

2026年後半を展望すると、アジア債券市場は景気循環による圧力に左右されるのでしょうか。それとも、より長期的な構造的要因が市場を支えることができるのでしょうか。

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Asia Pacific Head of Fixed Income, Head of State Street Investment Management Singapore

2026年5月には、インフレ再燃への懸念や為替相場の変動を受けて、世界の債券市場のセンチメントが悪化しました。原油価格はパンデミック以降で最大の月間下落率を記録したにもかかわらず、アジア各国の国債利回りは上昇し、資金調達環境が引き締まる中で、域内の現地通貨建て債券市場の価格に下押し圧力がかかりました。こうした状況を踏まえ、本稿では年後半の市場センチメントを左右すると考えられる主な要因について考察します。

世界の金利環境の変化とアジア市場への波及

2026年5月、米国の30年国債利回りは2007年以来の高水準まで上昇し、借入コストの増加やアジア通貨への下押し圧力につながりました。その後、米国とイランの合意期待を受けて原油価格は急落し、北海ブレント原油は2020年3月以来で最悪となる月間約19%の下落を記録しました。

足元のインフレリスクは後退したものの、海外投資家の慎重な姿勢は続いています。これは、アジア地域の経済ファンダメンタルズが比較的良好な状況にある中でも、世界的な金利動向がアジアの現地通貨建て債券市場のパフォーマンスを左右する重要な要因であることを改めて示しています。

為替安定を優先

インドネシア銀行(中央銀行)は2026年5月20日、市場予想を上回る0.50%の利上げを実施し、政策金利を5.25%へ引き上げました。これは2022年以来初めての利上げとなります。この決定は、インドネシアルピアが過去最低水準まで下落したことを受け、経済成長の下支えよりも通貨の安定を優先したことが主な要因でした。その後、国債利回りは上昇し、市場が要求するリスクプレミアムの高まりを反映する動きとなりました。

新たな地域的ボラティリティ要因

一方、日本の動きは、より構造的な変化を示唆するものでした。日本銀行による金融政策正常化の継続や財政への懸念を背景に、日本の10年国債利回りは2.8%まで上昇し、1996年以来の高水準となりました。また、日本銀行がインフレリスクと財政面の制約とのバランスを見極める中、市場の不確実性を抑えるため、国債買入れの減額計画(テーパリング)を一時停止すべきとの声も上がりました。

一部の市場では相対的な安定が維持

中国では、景気の減速感が強まる中、中国人民銀行が緩和的な金融政策スタンスを維持したことから、10年国債利回りはおおむね横ばいで推移しました。中国は国内投資家層が厚いため、その金融政策は世界的な金利サイクルの影響を比較的受けにくい状況にあります。

同様に、マレーシア市場も底堅さを示しました。マレーシア国立銀行が政策金利を据え置き、インフレが抑制されていることが支援材料となり、マレーシアリンギットも域内の他の通貨と比べて安定した推移となりました。一方、インドは通貨安圧力への対応と経済成長の下支えとのバランスを取りながら政策運営を続けています。インド準備銀行は、インドルピー防衛のために金利を活用するよりも、インフレ抑制を優先する姿勢を維持しています。

年央見通し

景気循環要因による逆風は依然として強い状況

2026年初時点の市場予想とは異なり、現在の市場では年末までに米連邦準備制度理事会(FRB)が利上げを実施する可能性が織り込まれつつあります。この期待の変化は重要な意味を持ちます。米国の高金利環境が長期化した場合、アジア債券の価格上昇が抑制される可能性があり、投資家は大幅な値上がり益ではなく、主としてクーポン収入に依存する状況に置かれることが考えられます。

米ドル安は追い風となる可能性

米ドル安は、アジアの現地通貨建て債券にとって主に二つの面で重要な意味を持ちます。一つは、域内の中央銀行が通貨防衛のために予防的な利上げを実施する必要性を和らげることです。もう一つは、米ドルを基準通貨とする投資家にとって、為替ヘッジを行わない場合の投資リターンの改善につながることです。この傾向が続けば、長期的にはアジアの現地通貨建て債券にとって大きな追い風となる可能性があります。ただし、米ドル安による追い風は、原油価格の再上昇やインフレ率の持ち直しによって相殺される可能性があります。中東情勢の緊張が続く中、こうしたリスクは依然としてくすぶっています。

構造的な支援要因:利回り、信用力、そして指数採用

こうした短期的な不透明要因がある一方で、長期的な投資魅力は依然として健在です。アジアの多くの国では、特にインドネシア、インド、フィリピンにおいて、実質利回りが米国の同水準を上回る状況が続いています。また、域内の多くの国では、主要先進国と比べて政府の財政基盤が健全であり、信用力も総じて堅調です。さらに、インドや韓国などのアジア国債が世界的な債券指数へ段階的に組み入れられていることも、この資産クラスへのパッシブ資金流入を後押ししています。

今後の見通し

2026年5月の動向は、商品市況が債券市場にとって追い風となる方向に動いた場合であっても、アジアの現地通貨建て債券市場が依然として世界的な金利動向の影響を受けやすいことを示しました。短期的には厳しい環境が続くとみられるものの、長期的な投資環境の基盤は引き続き堅固です。今後、米ドル安が進行すれば、魅力的な実質利回り、分散投資効果、そして世界的な債券指数への組み入れ拡大といった、この資産クラスが持つ本来の強みがより発揮される可能性があります。

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