2026年5月のiBoxx ABF 汎アジア指数(米ドルヘッジありおよび米ドルヘッジなし)は、いずれも小幅なマイナスリターンとなりました。リターンはそれぞれ-0.05%、-0.29%で、米ドルヘッジなし指数については、為替変動が主な押し下げ要因となり、リターンに対して-0.24%の影響を与えました。
State Street Investment Management Fixed Income Portfolio Strategists
アジア地域の債券市場は、国ごとに利回り動向が分かれる展開となりました。なかでも、フィリピンと香港の10年国債利回りはそれぞれ43bp、27bp上昇し、大幅な上昇を記録しました。韓国とタイでもそれぞれ14bp、13bpの上昇がみられ、インフレ期待の高まりやリスクプレミアムの上昇を背景とした金利上昇圧力が継続していることが示されました。
一方で、インドネシア(▲12bp)、中国(▲3bp)、シンガポール(▲7bp)では利回りが小幅に低下しました。マレーシアの利回りはほぼ横ばいで推移しており、比較的安定した金利環境が続いていることを示しています。
金融政策面では、アジア各国の中央銀行の大半が政策金利を据え置いた一方、インドネシア銀行(Bank Indonesia)は2026年5月の金融政策決定会合で政策金利を50bp引き上げ、5.25%としました。この利上げ幅は、市場が予想していた25bpを上回るものでした。
| 市場 | 現地通貨建てリターン | 為替リターン(FX) | USDベースのトータルリターン |
|---|---|---|---|
| 中国 | 0.5% | 1.0% | 1.5% |
| シンガポール | 0.8% | 0.3% | 1.1% |
| マレーシア | 0.2% | 0.1% | 0.3% |
| タイ | -1.0% | 0.6% | -0.5% |
| 香港 | -0.5% | 0.0% | -0.5% |
| フィリピン | -2.2% | -0.1% | -2.2% |
| インドネシア | 0.2% | -2.8% | -2.6% |
| 韓国 | -1.3% | -1.6% | -2.9% |
(米ドルヘッジなし:+1.5%)
中国の経済活動は、2026年5月も概ね安定的に推移しました。製造業は引き続き拡大基調を維持したものの、その勢いはやや鈍化しました。Caixin製造業購買担当者景気指数(PMI)は2026年4月の52.2から51.8へ低下し、国家統計局(NBS)が公表する製造業PMIも中立水準である50.0へと小幅に低下しました。
一方で、全体的な企業活動には改善の兆しが見られました。総合PMIは50.5へ上昇し、特にサービス業の堅調な推移がこれを支えました。外需は引き続き成長の重要な原動力となりましたが、その勢いにはやや減速の兆候も見られます。輸出は前年同月比14.1%増と堅調を維持し、輸入も同25.3%増と大きく伸びました。これは、国内需要の底堅さに加え、資源価格の高止まりを背景とした商品輸入の増加を反映しています。金融政策面では、中国人民銀行(PBOC)は緩和的なスタンスを維持し、1年物および5年物の最優遇貸出金利(LPR)をそれぞれ3.0%、3.5%で据え置きました。これは、経済成長を支えながら金融システムの安定を維持することを目的とした、バランスの取れた政策運営を示しています。インフレ圧力は引き続き抑制されており、消費者物価上昇率は前年同月比約1.2%と概ね横ばいで推移しました。一方、生産者物価は依然として上流コストの上昇圧力を反映しており、その一因として資源価格の高止まりが挙げられます。債券市場では、2026年5月を通じて国債利回りが低下しました。10年国債利回りは3bp、2年国債利回りは6bp低下しました。その結果、イールドカーブは緩やかなブル・スティープニング(短期金利が長期金利よりも速いペースで低下すること)となりました。これは、マクロ経済環境が安定する中で、短期的な金利見通しが緩和方向に傾いたことを示しています。
人民元は2026年5月に対米ドルで0.91%上昇しました。これは、米ドル安の進行に加え、当局による安定的な為替運営や、中国の良好な対外収支および輸出構造の変化による下支えが背景にあります。
(米ドルヘッジなし:+1.1%)
シンガポールの10年国債利回りは2026年5月に7bp低下しました。一方、シンガポールドルは同月に対米ドルで0.3%上昇し、小幅ながらプラスのリターンをもたらしました。インフレ率は引き続き落ち着いた水準で推移しており、2026年4月の総合インフレ率は前年同月比約1.8%となりました。投入コストの上昇が続く中でも、物価上昇圧力は比較的安定していることが示されています。製造業は引き続き拡大基調を維持しました。PMI(購買担当者景気指数)は2026年4月の50.7から5月には51.0へ上昇し、新規受注の増加や堅調な輸出需要を背景に、景況感の改善が見られました。指数は引き続き景気拡大を示す50を上回る水準で推移しています。民間部門全体の活動も底堅く推移しました。総合PMIは2026年5月に56.7へとやや低下したものの、依然として高い水準を維持しており、堅調な経済活動が続いていることを示しています。2026年第1四半期の経済成長率(GDP)は前年同期比6.0%となり、力強い成長を維持しました。製造業に加え、貿易および金融サービス分野の好調さが経済成長を支えました。また、短期金利は引き続き緩和的な水準に維持されており、良好な金融環境と国内需要を下支えしています。
(米ドルヘッジなし:+0.3%)
マレーシアの10年国債利回りは、2026年5月に概ね横ばいで推移しました。一方、マレーシア・リンギットは同月に対米ドルで0.1%上昇し、小幅ながらプラスのリターンをもたらしました。インフレ圧力は引き続き抑制されており、2026年4月の総合インフレ率は前年同月比約1.9%で推移しました。主要な消費項目における物価動向は安定しており、全体として落ち着いた価格環境が維持されています。製造業活動にはやや減速の兆しが見られました。S&Pグローバル製造業PMI(購買担当者景気指数)は、2026年4月の51.6から5月には49.0へ低下し、需要の鈍化や生産の伸びの緩和を背景に、小幅な縮小を示す水準となりました。一方で、経済成長は引き続き堅調でした。2026年第1四半期のGDP成長率は前年同期比5.4%となり、前四半期からはやや減速したものの、底堅い国内需要と活発な投資活動に支えられました。労働市場も安定した状態を維持しており、失業率は2.9%で横ばいとなりました。雇用環境が引き続き良好であることを示しています。金融政策面では、マレーシア中央銀行(Bank Negara Malaysia)が2026年5月の金融政策会合で翌日物政策金利(OPR)を2.75%に据え置きました。これは、安定した経済成長と抑制されたインフレ環境を背景に、景気を支援しつつも均衡を重視した政策スタンスを維持したものといえます。
(米ドルヘッジなし:▲0.5%)
タイの10年国債利回りは、2026年5月に13bp上昇しました。一方、タイバーツは同月に対米ドルで0.6%上昇し、プラスのリターンとなりました。経済指標は総じて堅調な内容となりました。製造業活動は引き続き拡大基調を維持しており、S&Pグローバル・タイ製造業PMI(購買担当者景気指数)は、2026年4月の52.7から5月には52.6へとわずかに低下したものの、引き続き景気拡大を示す水準を維持しました。生産の伸びはやや鈍化したものの、製造業全体としては底堅く推移しています。インフレ率は上昇したものの、タイ中央銀行(Bank of Thailand)の目標レンジ内に収まっています。2026年5月の消費者物価指数(CPI)は前年同月比2.79%上昇し、前月の2.89%上昇からわずかに低下しました。これは、長期間続いた低インフレ局面の後、物価上昇圧力が安定しつつあることを示しています。労働市場も比較的安定した状況が続いています。2026年初頭時点の失業率は約0.9%と低水準を維持しており、雇用環境の底堅さがうかがえます。こうした経済環境を背景に、タイ中央銀行は政策金利を1.0%に据え置きました。緩和的な金融政策を維持することで、緩やかなインフレ環境の下で経済成長を下支えするとともに、外部環境の不確実性にも対応する姿勢を示しています。
(米ドルヘッジなし:▲0.5%)
香港の10年国債利回りは、2026年5月に27bp上昇しました。一方、香港ドルは対米ドルで概ね横ばいとなりました。インフレ率は比較的落ち着いた水準で推移しており、2026年5月の総合インフレ率は前年同月比約1.9%となりました。安定した国内需要を背景に、物価動向は全般的に落ち着いています。経済活動は引き続き底堅く推移しました。サービス業および貿易関連セクターの回復が続いており、成長ペースは従来の傾向に沿ったものとなりました。また、企業景況感には改善が見られました。S&Pグローバル香港PMI(購買担当者景気指数)は、2026年4月の48.6から5月には50.4へ上昇し、再び景気拡大を示す水準へ回復しました。労働市場も安定した状況を維持しており、失業率は約3.7%で横ばいとなりました。雇用環境は概ね均衡の取れた状態が続いています。金融政策面では、香港金融管理局(HKMA)は米国の金融政策に連動した政策運営を継続しました。その結果、世界的に高水準の金利環境が続く中、香港の金融環境も引き続き比較的引き締まった状態となっています。
(米ドルヘッジなし:▲2.2%)
フィリピンの現地通貨建て債券市場は2026年5月に軟調な推移となり、10年国債利回りは43bpと大幅に上昇しました。一方、フィリピン・ペソは対米ドルで0.1%下落し、小幅なマイナスリターンとなりました。こうした債券市場の調整にもかかわらず、国内のマクロ経済環境には安定化の兆しが見られました。総合インフレ率は、2026年4月の前年同月比7.2%から5月には6.8%へ低下し、市場予想の7.5%への上昇に反して減速しました。これは、物価上昇圧力が徐々に和らいでいることを示しています。景気指標にも改善が見られました。S&Pグローバル・フィリピン製造業PMI(購買担当者景気指数)は、2026年4月の48.3から5月には50.8へ回復し、再び景気拡大を示す水準に戻りました。需要の回復、新規受注の増加、生産活動の拡大が改善を支えました。こうした事業環境の改善に加え、労働市場にも前向きな変化が見られました。失業率は約4.7%へ低下し、雇用環境が緩やかに改善していることを示しています。このように、インフレの鈍化と景気回復の進展が同時に見られる中、フィリピン中央銀行(Bangko Sentral ng Pilipinas)は政策金利を4.5%に据え置きました。インフレリスクと景気回復支援の必要性とのバランスを取りながら、経済指標を注視する慎重な姿勢を維持していることがうかがえます。
(米ドルヘッジなし:▲2.6%)
インドネシアの10年国債利回りは、2026年5月に約12bp低下しました。一方、インドネシア・ルピアは対米ドルで2.8%下落しました。インフレ率は上昇し、2026年5月の総合インフレ率は前年同月比3.08%となり、4月の2.42%から加速しました。食品価格やエネルギー価格の上昇が主な要因でしたが、依然としてインドネシア銀行(Bank Indonesia)が目標とする1.5%~3.5%のレンジ内に収まっています。製造業活動には安定化の兆しが見られました。S&Pグローバル製造業PMI(購買担当者景気指数)は、2026年4月の49.1から5月には50.0へ上昇し、景況感の分岐点となる水準まで回復しました。経済成長も引き続き力強さを維持しています。2026年第1四半期のGDP成長率は前年同期比5.61%となり、2022年第3四半期以来の高い伸びを記録しました。堅調な個人消費と政府支出の拡大が成長を支えています。労働市場も改善が続いており、2026年第1四半期の失業率は4.68%まで低下しました。これは1997年第4四半期以来の最低水準であり、雇用環境の着実な改善を示しています。こうした中、インドネシア銀行は、ルピア安への対応を目的として、2026年5月の金融政策決定会合で政策金利を50bp引き上げ、5.25%としました。これは2024年4月以来初めての利上げとなります。外部環境の不確実性が続く中、インフレ期待を安定させるとともに通貨の安定を重視する姿勢を鮮明にしたものといえます。
韓国の10年国債利回りは、2026年5月に約14bp上昇しました。一方、韓国ウォンは対米ドルで下落し、リターンに対して1.6%のマイナス要因となりました。インフレ率は上昇し、2026年5月の総合インフレ率は前年同月比3.1%となり、4月の2.6%から加速しました。主な要因は交通費や食品価格の上昇でした。一方で、変動の大きい項目を除いたコアインフレ率は2.5%で安定して推移しました。製造業活動は一段と改善しました。S&Pグローバル製造業PMI(購買担当者景気指数)は、2026年4月の53.6から5月には54.8へ上昇し、2021年3月以来の高水準を記録しました。生産活動と新規受注の力強い伸びが景況感を押し上げました。経済成長も加速しており、2026年第1四半期のGDP成長率は前期比1.8%となりました。これは2021年第1四半期以来の高い伸びであり、半導体輸出の急増や設備投資の回復が経済成長を支えました。労働市場は引き続き安定しており、2026年4月の失業率は2.8%と概ね横ばいで推移しました。こうした経済環境の下、韓国銀行(Bank of Korea)は2026年5月の金融政策決定会合で政策金利を2.50%に据え置きました。一方で、2026年のインフレ率および経済成長率の見通しを引き上げるとともに、今後数カ月の利上げの可能性を示唆しました。これにより、市場では韓国銀行がよりインフレ抑制を重視するタカ派的な姿勢へ軸足を移しつつあるとの見方が強まりました。