第2次トランプ政権(トランプ2.0)では、減税と関税引き上げが実施される可能性があります。それがアジア市場に何を意味するかは、2025年に入るとより明確になるでしょう。
米連邦準備制度理事会(FRB)はトランプ氏の勝利が直ちに金融政策に影響することはないと述べました1。ただし、長期的には輸入関税と減税がインフレを再燃させる可能性があり、それは、米国で高金利が長期化する可能性があることを意味します。選挙結果を受けて債券投資家は、FRBと同様に長期的な見方をとり、米国債利回りの上昇につながりました2。当面は、インフレが鎮静化するなかFRBは慎重なペースで利下げを継続し、他の中央銀行もこれに追随するでしょう。
債券投資家は米国の財政赤字や、関税がインフレに与える影響を引き続き懸念しています。市場のインフレ期待を反映する10年のブレークイーブン・インフレ率は、トランプ氏勝利の可能性が高まった2024年9月以降に上昇しています3。
選挙戦でトランプ氏は、財政赤字削減にあまり前向きな姿勢を見せませんでした。トランプ氏が掲げた減税は、景気を押し上げインフレを上昇させる可能性がありますが、連邦政府の赤字削減にはつながらないでしょう。高金利が長期化するため、投資家にとって債券の相対的な投資妙味は薄れます。しかし、ある時点で利回りは、債券市場に投資家を呼び戻すのに十分な水準まで上昇するでしょう4。
アジア地域に目を向けると、米大統領選の結果を受け、アジアのほとんどの通貨が対米ドルで下落しました。おそらくこれは、新政権下で米金利が相対的に高水準にとどまる可能性が高いとの見方を反映しています。米国の貿易関税が引き上げられた場合、一部のアジア諸国は自国の輸出競争力低下を回避するために、通貨切り下げに動く可能性があります5。
トランプ氏は大統領選挙期間中、中国からの輸入品に60%の関税をかけること、ならびに他の市場からの輸入品にもさまざまな課徴金を課すことを公約に掲げていました6。こうした課税が導入されれば、米国の商品価格は値上がりし、インフレ上昇につながることも考えられます。その影響は、代替品を他の供給源から調達すれば、抑えられる可能性があります。それでも、このシナリオでは、FRBはインフレ抑制のために利下げペースの減速を迫られるでしょう。その上、関税は一方通行ではありません。他の市場が報復措置を打ち出せば貿易戦争につながり、悪影響が及ぶことも考えられます7。
中国の対米輸出品への関税が導入されれば他の国々の競争力を高め、中国から市場シェアを奪うかもしれません。中国が大豆など米国産の農産物に関税を課せば、他の農作物輸出国は価格競争力が改善することで恩恵を受けるでしょう。その場合、より恩恵を受けるのは、おそらくアジア諸国のほとんどの生産者よりも、南米の農作物生産者であるとみられます8。
明るい点は、貿易摩擦が起きてもアジア市場の多くは国内経済が力強いため、地域への影響は限定的とみられることです。さらに、米中がいわゆる「グランドバーゲン」に合意し、特定の製品における互恵的な自由貿易を奨励するとの見方も一部で取り沙汰されています9。米国は長年、保護主義ではなく自由な商品の移動を推進してきたため、こうした政策転換は投資家の懸念沈静化に役立つでしょう10。
米大統領選直後、アジア債券は米国債券市場に連動し、総じて軟化しました。ただし、全般的な利回り上昇は、米国より小幅にとどまりました。ドル高と金利上昇は、アジア債券にとって逆風要因です。それでも、アジア地域は多様な国で構成され、それぞれ異なる課題に直面しているため、通貨や債券利回りで見たクロス・マーケット・パフォーマンスは国によって異なったものとなるでしょう。トランプ氏勝利後にアジア債券の価格は変動しましたが、地域の経済成長を牽引するファンダメンタルズ要因に概ね変化はありません。