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アジア市場は今後数十年間でどのように発展するのか

本稿では、人口ボーナス、教育水準の向上、分散投資の追求がアジア債券市場の成長をどのように促すのかを探ります。

Asia Pacific Head of Fixed Income, Head of State Street Investment Management Singapore

人口動態がもたらす好機

人口ボーナスとは、非生産年齢人口に対する生産年齢人口の比率が高い経済が受ける成長促進効果を指します。労働力が増加するため経済成長は加速するはずですが、教育水準や医療の質といった他の要因も経済発展に影響を及ぼします。人口ボーナスは、高出生率と医療の改善が重なるときに生じます。出生率が低下に転じ、働かない高齢者の割合が増える場合、この恩恵は一時的な現象に終わります。人口ボーナスは、インドネシアやラオスのように、高齢者に比べて若者の比率が高い市場ではまだピークに達していませんが、韓国など、その他の市場は、そうした優位な状態から恩恵を受ける段階を過ぎている国もあります。

教育水準の向上はアジアの高付加価値産業の成長を加速させるでしょう

アジアの幾つかの国は、自国経済を低付加価値・低スキルの製造業輸出から、高付加価値産業への経済転換を図ろうとしています2。そうした産業(半導体製造など)は、より高度な教育を受けた労働力を必要とする傾向があります。労働力の教育水準を測定する方法の1つは、高等教育を受ける資格をもつ人のうち進学した人の比率を調べることです。この比率は東南アジア諸国連合(ASEAN)加盟国内で大きな差が見られます。たとえば比率が最も高いシンガポールでは、高等教育を受ける資格をもつ人の98%が進学していますが、最も低いラオスの進学率は13%にとどまっています。こうした教育水準の格差は主に出生率にも反映されています。経済が発展している国ほど出生率は低くなります。これは、親が子供の教育費により多くの資源を割けることを意味します3。出生率が高い国では、親が子供全員に高等教育を受けさせるための資源を確保することが難しくなる可能性があります。

とは言え、2025年6月に公表された調査結果が示すように、アジア市場は、技術進歩や労働と資本の代替を促進することでより恩恵を受けられるため、教育の量的拡大のみに力を入れるべきではありません。

多くのアジア市場が現在重視しているのはバリューチェーンの上位へのシフトです4。つまり、労働集約的で低コストの製造業から、半導体、電気自動車、バッテリー、医薬品などの高付加価値産業への経済構造の転換です。

世界経済フォーラムによると、ASEAN加盟国内の貿易は今後10年間で大幅に増加する見通しです。さらに、2031年までに、ASEAN加盟国の輸出は2024年の水準から90%増加すると予想されています(それに対して世界貿易は30%増と予想されています)5

ハイテク産業は投資対象として魅力的

アジアのハイテク産業の発展は、国内外の投資家を引き付け続けるでしょう。半導体企業などのアジアのハイテク産業の企業は、事業開発資金を調達するために、外貨建てと国内通貨建ての両方で債券を発行することを選択できます。資本市場の厚みが増すなか、これは投資家により幅広い機会を提供します。

アジアの現地通貨建て債券市場は経済発展と歩調を合わせて拡大を続けるでしょう

2025年第2四半期、ASEAN加盟国は6,538億米ドル相当の現地通貨建て債券を発行し、その結果、発行残高は合計2兆6,000億米ドル相当となりました。これは域内の債券発行残高全体の9.1%に当たります6。より広範囲で見ると、中国が引き続き地域の現地通貨建て債券発行残高の大半を占めており、2025年6月末時点の債券の総発行残高は約23億米ドルとなっています7

発行状況は、金利の変化やその他の要因により時間と共に変動しますが、アジア債券市場の裾野と厚みは拡大を続けるでしょう。域内の現地通貨建てソブリン債は、銀行、年金基金、保険会社などの長期志向の機関投資家によって主に保有される傾向があります。これらの投資家は、債券を活発に取引するのではなく保有する場合が多いため、ボラティリティの抑制に役立つと思われます。海外投資家の保有期間は短い傾向があり、したがって、債券市場の資金流入出額は毎月かなり大きく変動します8

米ドル相場の不透明感がアジアの現地通貨建て債券の魅力を高めています

米国の財政政策の行方への懸念が高まるなか、投資家は米ドル建て資産からの分散化を進めてきました9。米労働市場は最近弱含んでおり、米連邦準備制度理事会(FRB)が9月に、2024年12月以来となる0.25%ポイントの利下げに踏み切る主な要因となりました10。さらに、個人消費支出(PCE)価格指数の上昇率は2025年7月末時点で前年同月比2.6%と、FRBの目標である2.0%を引き続き上回っています11。そのため、FRBは失業率の悪化が続くかどうかを懸念しながら、利下げにより景気を下支えする一方で、インフレを過度に押し上げないようにするというやや難しい舵取りを迫られるでしょう12

アジア債券は、米ドル建て債券に代わる投資対象を求める投資家から恩恵を受けています。2025年8月には、アジア市場に流入した海外投資家の資金は合計140億6,000万米ドルと、月間の流入額としては2019年以来の高水準となりました13。実際、最近のFRBの利下げに加え、2025年にあと2回の利下げを行うというガイダンスを受け14、アジアの一部の中央銀行では、国内経済を下支えするための利下げ継続の余地が拡大しています15

結局のところ、アジアの現地通貨建て債券は、アジアの多様な経済へのエクスポージャーを獲得しつつ、株式市場と比較した債券の相対的な安定性、並びにインカムを受け取ることを目指す投資家に引き続き魅力的な機会を提供しています。

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