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経済環境が変化するなか恩恵を受けるアジア債券

関税措置が発表された「解放の日」から数ヵ月が経ちました。混乱が収まるなか、新たな経済秩序の恩恵を受ける市場としてアジア債券に注目が集まりつつあります。

Asia Pacific Head of Fixed Income, Head of State Street Investment Management Singapore

2025年4月に発表された米国の関税措置は、一部のケースで非常に高かったことから、事実上、特定の市場との貿易の停止を意味しました。この厳しい現実に投資家は動揺し、米国の株式および為替市場の下落につながりました1。こうしたボラティリティ上昇を受け、トランプ大統領は米国と諸外国が交渉できるよう、関税の適用を90日間猶予する措置を発表しました。90日の猶予期限は2025年7月8日に終了しますが、さらに延長や再停止の可能性もあります。それでも、中国以外のすべての市場を対象に2025年4月から実施されている米国への輸入品に対する10%の関税は維持されます2

すでに多くの国が最終的な税率をめぐり米国と交渉を開始しており、一部の国は合意に達しています。しかし交渉が上手くいかなければ、90日の猶予期限が終了したのち多くの市場が高い関税を課されることになります3

アジア地域に目を向けると、東南アジア諸国連合(ASEAN)加盟国は米国からの輸入品に対して報復関税を実施しないことを確認し、米国と関税引き下げについて交渉する意向を示しました4。異例の展開で先行きが不透明なことから、域内の市場の多くが関税引き上げで悪影響を受ける可能性があるにもかかわらず、現地通貨建てアジア債券の相対的な魅力は高まっています。

アジア市場で関税の影響を最も大きく受けるのは?

関税の影響の度合いを主に左右するのは、個々の市場の米国への輸出量と適用される関税率の水準です。現在最も影響を受けやすいのはベトナムとカンボジアで、関税率はそれぞれ46%と49%となっています5。これより影響の度合いが若干低いのはタイ(37%)とインドネシア(32%)です6。米国の輸入品の多くがアジア市場で生産されており、関税の計算には貿易赤字が使われているため、貿易赤字が多いほど、関税率は高くなります7。さらに、米国はすでに複数の国や経済圏との間で関税率をめぐる貿易協議において合意または合意に近づいています。これにはベトナム8、日本9、英国10、そして将来的にはユーロ圏が含まれています。

米国市場は全面安

「解放の日」以降の米国では、株式市場、債券市場、そしてドルがいずれも下落するという極めて異例の事態となりました。先行きが不透明になると、投資家は多くの場合、株式を売り債券を購入します11。投資家が米国債券を購入し、安全資産への逃避の動きを強めると、通常、米ドルは下支えされます12

また、主要格付け機関が米国の信用格付けを引き下げました。投資マンデートで最上位の信用格付けを義務付けているケースもあるため、格下げは、一部のファンドマネージャーが保有米国債券の売却を迫られる可能性があることを意味します。格下げの大きな要因は米国の公的債務の急増でした13

アジア債券の魅力が相対的に上昇

海外投資家はこの数ヵ月でアジアの現地通貨建て債券の購入を増やしています。アジア地域の利下げは需要を促してきた要因の1つですが、前述した経済環境の変化や関税発表後の不透明感でアジア債券の相対的な魅力が増したことも需要拡大の一因です。

歴史的には、米国債が下落すると、その影響は直ちに波及しアジア債券価格の下落につながってきました。しかし直近の米国債券市場の後退に際して、アジアの現地通貨建て債券は同様の売り圧力に晒されませんでした。この状況について、あるコメンテーターは、1997年のアジア通貨危機と逆のことが起きていると説明しています14。1997年のアジア通貨危機では、タイバーツが急落し、その影響は域内の他の通貨や資産に波及しました。2025年の現在、投資家はもはや米ドルの優位性にあまり確信がもてずにおり、通貨の多様化を望んでいるため、アジアに資本が流入しています。これがいわゆる「脱ドル化」の動きです。

脱ドル化とそれがアジア債券市場に与える影響とは?

中央銀行は自国通貨を管理しその価値を支えるために外貨準備を保有しています。近年、中央銀行は外貨準備に占める米ドルの割合を削減しています15。2000年代初めには米ドルは世界の外貨準備の約70%を占めていましたが、その割合は2025年4月には約57%まで低下しました16

このように米ドル離れが進むなか、中央銀行は外貨準備の一部を人民元、豪ドル、カナダドル、シンガポールドル、韓国ウォンなどの非伝統的通貨へとシフトさせています。こうした変化は、市場の流動性や外貨準備管理が改善し、中央銀行にとって非伝統的通貨を外貨準備に保有する魅力が高まったことを反映しています17

複数のアジア通貨が非伝統的準備通貨として台頭してきた背景には、これらの通貨が資本取引の自由化、安定した政策、独立した中央銀行のもとで責任をもって管理されていることへの投資家の信頼感があります18。そうした信頼感の波及効果により、投資家の間ではアジアの現地通貨建て債券への投資に伴う為替リスクを積極的に受け入れようという意欲が強まっています。

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