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スタグフレーション懸念とアジア債券 ― その影響とは?

債券投資家は忍び寄るスタグフレーションの脅威に直面しています。景気後退リスクが高まる中、どこに避難すればよいのでしょうか?


Asia Pacific Head of Fixed Income, Head of SSGA Singapore

どこへ避難しても「Sワード」、すなわちスタグフレーションの脅威は忍び寄ってきます。米連邦準備制度理事会(FRB)が大幅利上げによるインフレ抑制の姿勢を崩していないため1、世界の中央銀行は金融引き締めを迫られており、そうしなければ、通貨安による輸入物価の上昇に直面することになります。

たとえ中央銀行が金融政策を引き締めても、サプライチェーンの混乱、ロシア・ウクライナ戦争、中国が継続するコロナ対策によりインフレ圧力は続き、成長は圧迫されます。世界銀行は2022年のグローバル経済成長率の予想を、2022年1月時点の4.1%から下方修正し、2.9%としています(2021年は5.7%)2。これは、多くの市場がスタグフレーション、すなわち景気後退と高インフレが同時進行する局面、に入るとの懸念につながっています。

そうした可能性を踏まえると、スタグフレーション環境がグローバルな債券投資家に与える影響について探る価値はあると考えます。まず次の点から考えてみましょう。

スタグフレーションが通常、債券に与える影響とは?

スタグフレーション環境で最も留意すべきなのは、インフレを抑制するための中央銀行による利上げに伴う、利回りの上昇です。これに、景気減速が追い打ちをかけます。その結果、ハイ・イールド債などの低格付けクレジットを中心にデフォルト・リスクが上昇します。S&Pが先ごろ示した予想によると、金利とインフレの大幅な上昇が続く場合、世界の赤字企業の割合は2023年までに2倍の17%に達する可能性もあります3。こうしたリスクの高まりが借入コストに反映されるのは不可避であり、利回りはさらに上昇することになります。

要するに、債券への影響という点では、スタグフレーションは極度のインフレのようなものです。ただ、現在の経済環境を、たとえば1970年代のスタグフレーションと同列で論じるのは避けるべきでしょう。状況がかなり違うからです。第一に、当時は金利の上昇幅が現在と比べてかなり小幅でした。加えて、1970年代には、労働市場が逼迫する現在と対照的に、失業率も過去最高水準にありました4

スタグフレーションからの逃避先を求めて

現在の状況は1970年代とかなり異なるとは言え、スタグフレーションが債券価格に悪影響を及ぼす可能性が高いのは間違いありません。スタグフレーション入りの可能性が高まり続ける中、債券投資家はこう考えるでしょう ―― どこかに逃避先はあるのだろうか?

その答えとして真っ先にあがるのは、アジアの現地通貨建て国債です。ただ、その理由について掘り下げる前に、スタグフレーションの影響から逃れたい投資家にとって、なぜ米国は最も避けるべき場所なのか、その理由について考えたいと思います。

米国が景気後退に陥る可能性が89%とは本当なのか?

米国ではインフレが高止まりしているため、景気後退に陥れば正式にスタグフレーション入りとなります。FRBは、景気後退を招くことなく利上げによりインフレを抑制する、「ソフトランディング」を目指していますが、成功する見込みは薄そうです。

実際、統計によると、FRBが高インフレ抑制を目指した過去9回の利上げ局面のうち、8回でその後、景気は後退しています5。これに基づくと、米国は89%の確率で景気後退に陥り、その結果、少なくとも短期的にスタグフレーション入りすることになります。

これに対して、アジアの経済および金融環境は、それほどスタグフレーションの脅威にさらされていないようです。

アジアのスタグフレーション防衛力を評価

アジアにスタグフレーションの脅威がないわけではありません。それでも、そうしたリスクは主に2つの理由からかなり低いとみています。それは、相対的に低いインフレと景気後退に対するバッファーです。

第一に、アジアのインフレは欧米に比べて落ち着いて推移しています。加えて、アジアのほとんどの中央銀行はインフレ圧力を緩和するため、既に引き締めサイクルを開始しています。目先、インフレ上昇の兆候はあるものの、景気後退に陥る確率は依然として相対的に低水準にあります。

最近の経済調査によると、ほとんどのエコノミストはアジアが景気後退に陥る確率を25%以下とみています6。データをさらに詳しく見ると、状況はさらに明るいようです。景気後退に陥る確率が25%なのは韓国だけで、中国は20%、マレーシアは13%、タイは10%、フィリピンは8%、インドネシアは3%です。東南アジア諸国は、利上げ幅が小さいことに加え、観光客数や輸出の回復を背景に、特に底堅さを見せています7

利回りは既にピークをつけた可能性がある

最後に、アジア経済がスタグフレーション入りするリスクが低いことに加え、アジアの現地通貨建て国債のほとんどで利回りがピークを迎えている可能性があげられます。多くの市場で、利回りは既に2018年のFRBの前回利上げサイクル時の水準を超えています8。ここからは、2022年下半期が進むにつれ、これらの債券がラリーする可能性が十分にあることがうかがえます。

アジアは、スタグフレーションから逃れたい債券投資家に最善の機会を提供する可能性がありますが、何が何でも利回りを追求しようという考えは危険です。たとえば、アジアのハイ・イールド債セクターは、依然として中国の不動産債務危機の後遺症に苦しんでいます9。このように不透明な時期には、投資対象を馴染みのある商品に絞ることをお勧めします。


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