2022年はインフレ、利上げ、長引く中国のロックダウン、地政学的緊張などの逆風に直面し、債券投資家にとって厳しい1年となりました。
2023年を前に、過去12ヵ月間に経済に影響を及ぼしたイベントと、そのどこに投資機会があるのかを考察します。
年初には、ロシアとウクライナの戦争が回避されることが期待されていましたが、残念ながらその望みは破れました。人的損失は甚大でしたが、債券市場のパフォーマンスの大きな要因となったのは、最初の6ヵ月のエネルギー価格高騰です。
多くの財とサービスにおいて、エネルギーはコストの大きな要素であることから、エネルギー価格の上昇(そして食料価格の上昇もある程度)はインフレに急速に波及しました。このため、米連邦準備制度理事会(FRB)は利上げ姿勢をさらに積極化させました。
インフレ目標の達成には利上げが必要であるというFRBの新たな認識は、米国における借り入れコストを決定する米連邦公開市場委員会(FOMC)が四半期毎に公表する「ドット・プロット」(金利予測分布図)に反映されました。ドット・プロットは大幅かつ急速に上方にシフトし、2022年6月半ばには、短期金利の予想値は3.4%に上昇していました1。長期予想にはほとんど変化はなく、FRBがこれを米経済の構造変化というより、一過性のものと考えていることを示していました。
FRBの引き締めの波及効果によって、その後、米ドルが強含み、中国を除くほぼすべての市場で金利が上昇しました2。
2022年の通貨と債券価格には、アジアと米国にわたって明確なパターンがあり、アジアでは1月から10月末にかけて徐々に下落していきました。その時点では、ほとんどの市場が比較的順調な回復を見せていました。このセンチメントの変化に関する引き金となった可能性があるのが、米国の予想を下回るインフレ率で、その一因は7月以降のエネルギー価格の着実な下落でした。エネルギー価格は、足元では2022年初めとほぼ同水準にあります3。FRBが必要とする利上げ幅に対する認識は引き下げられ、それが投資家センチメントを押し上げました。この見解が2023年も続くかどうかは不明です。それでも、インフレがピークを付けたことを示す明るい兆候はあり、FRBに急速かつ大幅な利上げ継続を促す圧力は、低下しています ―― ただ期待され続けている経済のソフトランディングは、まだ実現できないかもしれません。
債券のパフォーマンスはアジアのほぼ全ての国と地域でマイナスとなったものの、その原因は市場固有の弱さではなく、外部のマクロ経済要因です。海外投資家がアジア債券の保有額を削減したのは事実ですが、過去に見られたような、売り急ぐ動きはありません。このパターンは、債券と連動する通貨市場にも反映されました。ここ数年、アジアの中央銀行は金利のコントロールをより効果的に行うようになっています。おそらく、アジアのほとんどの地域は、過去に急激な通貨切り下げを経験しており、自国通貨の急落を許せば経済にどのような打撃があるのかを嫌というほど知っているからでしょう。
中国はFRBに追随せず、むしろ逆に、利下げを行って自国通貨が対米ドルで若干下落することを容認しました。中国は不動産セクターにも、解決すべき問題を抱えていました。政府による不動産セクターの支援策は、暫定的な措置と見る向きもありますが、実際に健全な再編につながりました。活力のある企業は相対的に力強さを維持し、割安な価格で取引される可能性があります。明るい点として、投機的な住宅購入取引への資金流入が減る可能性があり、中間層の所得が消費財や体験型サービスへとシフトし、経済全体が恩恵を受ける可能性もあります。
悲観的シナリオは、FRBの過度の引き締めによって米経済が大打撃を受け、世界的な景気後退につながることです。また、欧州の紛争がエスカレートすれば、エネルギー価格の高騰につながり、投資家の先行きへの不安が高まる可能性もあります。
より実現の可能性が高い楽観的シナリオでは、供給のボトルネックが徐々に緩和されてインフレが抑制され、また欧州の紛争が解決する可能性があるとみています。そうなれば米ドルは下落し、アジア通貨は上昇し、アジア地域の現地通貨建て債券の投資家は恩恵を受けるでしょう。
また、中国がコロナ禍の収束に成功すれば、消費者が先送りしていた需要を満たそうと、特に旅行や娯楽サービスへの支出を増やすため、経済成長を促します。中国はテクノロジーイノベーション・セクターの支援策も計画しており、これは投資家にさらなる投資機会を提供します。アジア諸国は相互に連結しているため、中国の力強い経済成長は他のアジア市場に恩恵をもたらすと考えられます。こうした要因が組み合わされば、アジアの債券市場にとって魅力的な環境が生まれるでしょう。