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中国経済はコロナ政策の転換からどのような恩恵を受けるのか?

中国のコロナ政策の方向性が定まり、経済再開の動きが加速している今こそ、中国経済の先行きを考える好機と言えます。

Asia Pacific Head of Fixed Income, Head of SSGA Singapore

中国は2022年12月にゼロコロナ政策の緩和に動き始め、ほぼすべての規制が撤廃されました。オミクロン変異株は予想されていたほど脅威ではないとの見方が示され、ウイルスに感染しても自宅療養で対処可能であると通知されたことで、国民の間では安心感が広がりました1。この前向きな見通しは、現実のものとなったようです。世界保健機関(WHO)のデータによると、中国国内の新型コロナウイルス感染者数は、2023年3月下旬に1億人近くに達しました2。しかし、感染者数はピークを越えたとみられ、国民にとっても経済にとっても望ましい結果となっています。

中国国内の景気は回復するが、世界的な暗雲は続く

中国がコロナ政策を転換して以降、パンデミック期間中に制限され、抑圧されていた娯楽、外食、旅行などのサービスに対する消費者の需要が一気に解き放たれています。これは、国内経済にとっては良いニュースですが、中国は純輸出国であることから、過度に積極的な利上げをきっかけに世界経済が減速すれば、中国の輸出セクターに悪影響が及ぶ可能性があります。

金融政策は引き続き緩和的

中国の金融政策は、他の多くの先進国とは異なる展開となっています。これは、コロナ禍から回復する経済の支援に政府が積極的なこともありますが、同時に、不動産セクターの脆弱性を安定させたいという目的もあります。多くの市場がインフレを抑制するために金利を引き上げる中、中国は借り入れコスト3と銀行の預金準備率を引き下げて融資を促進することで、経済の活性化を図っています。2023年2月の消費者物価指数は年率1.5%の上昇4と、比較的小幅な上昇にとどまっており、中国にとって今のところ、インフレは大きな問題ではないようです。とはいえ、いずれインフレが定着するようなことになれば、政府は経済支援の度合いを引き下げ、金利を引き上げる必要に迫られるかもしれませんが、短・中期的にその公算は小さいと思われます。

FRBの利上げ停止で、現地通貨建て債券が恩恵を受ける可能性

米連邦準備制度理事会(FRB)は依然としてインフレを懸念しており、2023年中にさらなる利上げを行う意向を示しています。ところが、債券市場は、景気が十分に減速して物価上昇が落ち着いた場合、FRBが年内にも利下げを開始すると予想しています。そうなれば、遅効性の恩恵がもたらされ、中国の輸出セクターが後押しされるでしょう。アジアの債券市場全般に関しては、米国の金利が低下すると、ドルが下落します。そのため、ドル建て債券と比較して、現地通貨建て債券の魅力が相対的に高まる可能性があります。

中国の不動産セクター-経済再開は追い風なのか?

中国の不動産セクターもパンデミックの影響を受けて、買い手も売り手もロックダウンで動きを止められ、一部の大手不動産デベロッパーは存続が危ぶまれました。その後、政府は不動産業界の支援に断固とした姿勢で臨んでいます。金利が相対的に低いことや、経済の完全再開で個人所得が増加していることも相まって、懸念は和らぐとみられます。そうなれば、投資家のセンチメントが上向き、不動産デベロッパーが発行する社債の価値が押し上げられる可能性があります。このことを示す早期指標として、最近の新築住宅に関する価格データを見ると、一部の都市では新築住宅価格は前年同期比でわずかな下落にとどまっています。それに対して、北京や上海では、新築住宅価格は前年同期比で既に上昇に転じています5

地域市場への波及効果

中国はまた、入国・出国者の渡航制限も緩和しています。3月には、すべての国・地域から外国人がビザを申請して中国に入国できるようになりました6。また、海外に出かける中国人旅行者の急増は、観光に依存しているアジアの市場にとって好材料です。旅行者数はまだパンデミック前の水準まで回復していませんが、力強く伸びています。

アジアの一部地域では、インバウンド旅行者の増加に加えて、中国からの鉱物・農産物の需要増加も期待されます。インドネシアは、ニッケルなどの天然資源を中国に輸出しています。タイ、フィリピン、ベトナムは農産物を中国に輸出しており、消費者の外食が増えることで恩恵を受けるはずです7

中国とアジアの見通し-慎重な楽観論

初期の兆候として、中国では国内経済が力強く回復し、消費者需要は、他の市場で規制が緩和された時に見られたのと同様のパターンが予想されます。この一連の流れは、モノの消費よりもサービス消費にとって追い風になるとみられます。その結果、観光や娯楽が最大の受益者となる一方で、コロナ禍で恩恵を受けた宅配便などの分野では、需要が減速する可能性があります。

中国の経済活動再開は、地域全体の経済成長も押し上げるとみられます。中国の財需要の回復を受け、アジア太平洋地域の多くの国のGDP成長率は0.4%ほど押し上げられる可能性があります8。世界経済の成長率が比較的低調であることを考えると、この押し上げ効果は見た目以上に大きな意味を持ちます。中国の内需拡大から恩恵を受けるセクターの企業が発行するアジアの社債にとって、見通しの改善は追い風になるでしょう。

一方で、世界経済の見通しは不安定で不透明な状況が続いており、欧米の利上げの影響で、中国の輸出セクターが得意とする製品に対する消費者需要が冷え込む可能性があります。こうした逆風にもかかわらず、パンデミックによる影響が後退するにつれて、中国とアジアには、慎重ながらも楽観的となる余地が残っています。

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