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アジアのグリーンボンドによる調達資金の配分状況

「ASEAN+3」市場でグリーンボンドの発行が増えるなか、本稿では域内のサステナブル資本の配分について検証し、この先2023年末まで、ならびに来年以降の見通しを分析します。

Asia Pacific Head of Fixed Income, Head of SSGA Singapore

2023年6月末、ASEAN+3(東南アジア諸国連合加盟10ヵ国に日本・中国・韓国を加えた東アジア地域における経済協力の枠組み)圏内のサステナビリティ・リンク・ボンド市場の発行残高は6,940億米ドルをつけました。世界全体では、3兆6,000億米ドルの発行残高があります。1

サステナビリティ・リンク・ボンド市場は、特定のエシカル(倫理的)目標をもつ様々な債券を網羅しています。たとえば、電力効率の改善、気候変動への適応促進、汚染レベル低下の助けとなる再生可能エネルギー・プロジェクト向け資金調達を目的とするグリーンボンドもその一つです。他にも、住宅などの社会インフラの改善を目的とするソーシャルボンドや、持続可能ではない事業モデルから、よりエシカルな事業構造への転換を目指す企業を支援するトランジションボンドなども含まれます。

アジアのエシカル金融プロジェクト

多くの投資概念に共通して言えることですが、市場の定義や統計だけでは、国際金融が実際にどのように活用されているかは見えてきません。エシカル投資に関して、当社はアジアの現地通貨建て市場が、地域のサステナビリティ・リンク・プロジェクトをどのように支えているかを詳しく調査しました。

たとえば、シンガポールでは、24億シンガポールドルのソブリン・グリーンボンドのトランシェから7億シンガポールドルが、2本の新規鉄道路線の開発に充てられました。この鉄道網の拡張によってシンガポールの道路から年間2万2,000台に相当する自動車が取り除かれると推計されており、政府の脱炭素化社会実現の取り組みに寄与するとみられます。債券の償還年限は50年で、個人投資家および機関投資家向けに販売されました。2

一方、グリーン・ファイナンスの国際的ハブを目指す香港政府は、その一環として、2019年の初回募集から2023年1月までに、約160億米ドルのグリーンボンドを発行しています。調達資金は、水や廃棄物の管理システム、環境に優しいビルの開発に充てられました。また、インドネシア政府は海洋環境保全プロジェクトの資金を調達するため、2023年に「ブルーボンド」市場に参入しました。4

アジア企業による発行も増加

発行活動はソブリンだけにとどまらず、2023年にはフィリピンの大手銀行がグリーンボンドの3つ目のトランシェを発行しました。調達資金は気候変動に配慮した農業プロジェクト、持続可能なビル、電気自動車の導入などに使われる予定です。同様に、タイ最大級の電力会社も、太陽光発電プロジェクトの資金を調達するために5億バーツを調達しました。6

2023年8月には、マレーシアの再生可能エネルギー専門会社が太陽光発電設備の導入費用を調達するために3億9,000万リンギットのグリーンボンドを発行すると発表しました。これは、世界初の認証付グリーン・スクーク(イスラム債)であり、サステナビリティ・リンク・スクーク債市場確立の礎を築く役割を担うという点でも、重要な動きと言えます。7

さらに北の韓国では、大手エネルギー・ソリューション企業がバッテリーやエネルギー貯蔵ソリューションの開発を支えるためにグリーンボンドを発行し、10億米ドルの調達に成功しました。8

トランジションボンド市場

中国はグリーンボンド市場の成長で得た教訓を活かして、トランジションボンド市場の開発を進めています。2021年のパイロット・スキーム実施後、2022年には、たとえばエネルギー企業の水力発電への転換支援や電気自動車分野の成長促進を目的とするトランジションボンドを196億米ドル発行しました。9

国境を越えたイニシアティブと力強い投資の追い風

S&Pグローバルは先ごろ発表した調査レポートで、世界のサステナブル債発行額は2023年に9,000億米ドルを突破するとの見通しを示しました。とは言え、この先問題がないわけではありません。レポートで指摘されているように、たとえば中国では金利の上昇によって金融機関が発行する償還期限の短いグリーンボンドの魅力が薄れており、2023年上半期の発行額は2022年に比べて減少しています。10

グリーンボンドに関する共通の規制の枠組みを確立する取り組みも、実を結びつつあります。中国とシンガポールは2023年4月、「グリーンファイナンス・タスクフォース」を設置すると発表しました。11 これにより、国境を越えたサステナブル債の発行が可能となります。将来的には、他のASEAN加盟国もこのイニシアティブに参加する可能性があります。中国は欧州連合とも、サステナブル債に関する共通の定義の確立に取り組んでおり、実現すれば国境を越えたサステナブル債の発行や取引が可能になるでしょう。

政府や企業は、将来的に二酸化炭素排出量を削減するとの公約を守るよう求められており、その圧力はおそらくグリーンボンドの発行の強力な追い風になります。加えて、各地で広がる共通の枠組み作りの動きによって「グリーン」ボンドは正確に定義されるようになり、グリーンボンドに関する規制は、発行体にとっても投資家にとっても分かりやすいものになるでしょう。

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