Skip to main content
インサイト

アジアの現地通貨建て債券市場で、拡大する投資機会に注目

2023年上半期にはアジア債券市場の様々なセグメントが、発行体の数と投資家タイプの両面において、力強い成長を見せました。

Asia Pacific Head of Fixed Income, Head of SSGA Singapore

東アジアの現地通貨建て債券市場だけを見ても、市場規模は2023年第1四半期に23兆8,000億米ドルと、昨年の同時期から9.1%成長しました1。このトレンドはベトナムやフィリピンなどを中心に、第2四半期に入っても続きました2。実際、フィリピンの現地通貨建て債券市場は現在、2,120億米ドルに拡大しています3

フィリピンはアジアの多様性と成熟を反映しているため、まず、この市場の拡大を支えている幾つかの要因について検証し、それから地域全体に分析範囲を広げていきます。

力強い国内需要

フィリピン経済は2023年最初の3ヵ月間に、前年同期比で6.4%拡大しました4。成長を支えたのは、力強い内需と海外労働者からの送金です。観光産業の回復も成長を支えた要因で、中国からの旅行者数がかなり持ち直しており、この傾向は続くとみられます。

とはいえ、インフレは根強いものの、2月の8.6%から5月には6.1%に低下しており、フィリピン中央銀行(BSP)に利上げペースを緩和する余地ができたことを示しています5。ロイターがエコノミストを対象に実施した調査によると、米連邦準備制度理事会(FRB)が利上げを継続するか否かによって、フィリピン中央銀行は利上げを休止する可能性もあります6

ペソ相場は、海外からの送金の恩恵を享受

過去1年間に、海外からの送金の大幅な増加と相対的な金利上昇がフィリピン・ペソを下支えしてきました7。また、通貨の底堅さの一因には、ペソ建て債券の保有者に占める海外投資家の割合が相対的に低いこともあります。これは、金利変更を受けた突然の資本逃避の影響を、市場が受けにくいことを意味します。安定したあるいは相対的に変動しにくい通貨は、インフレ抑制にも役立っており、輸入食品や輸入エネルギーのコスト低減につながっています。

国債発行の前倒し

フィリピンの現地通貨建て債券市場の成長を助長したのは、景気回復支援策の財源を賄うための国債発行の増加と前倒しです。銀行、投資会社、契約型貯蓄機関が引き続き、国債の主要な保有者となりました8

これに対して、社債市場は金利上昇の影響を受けて、若干縮小しました。社債発行体の構成は概ね変わらず、2023年3月末時点で銀行、不動産会社、持株会社が市場の80.6%を占めていました9

より正確で安心な参照金利

フィリピン中央銀行は先ごろLIBORの代替金利として、翌日物参照金利の公表を開始しました10。流動性管理の改善を促し、中央銀行が市場状況の変化に、より敏感に対応できるようにすることが狙いです11。米国も2022年12月に翌日物参照金利に移行しており、新規ローンでは既にLIBORは使用されていません12

他のアジア債券市場も拡大中

上述の通り、東アジアの現地通貨建て債券市場は、2023年第1四半期に順調に成長しました13。主因は景気回復プログラムの財源を賄うための、国債増発の前倒しです。実際、ベトナムは政策金利を引き下げた市場の1つとなりました。この利下げは、インフレ低下を受けたもので、不動産セクターの安定にも寄与するでしょう。一方、利上げを実施した市場では、多くの企業の債券発行意欲が低下しました。

アジアの経済成長は持続する見込み

国際通貨基金(IMF)は2023年5月の地域経済見通しで、アジア太平洋地域について、2023年の世界経済成長の約70%に寄与し、同年の成長率は4.6%をつけるとの予想を示しました14。金利上昇にもかかわらず、アジア全体で内需は相対的に力強さを維持しており、経済成長を支えています。

中国経済の中期的な方向性は、引き続き、アジア地域全体の経済の強さを判断するうえで重要な指標です。魅力的な観光地を擁する市場は、中国からの入国者が増えるのに伴って恩恵を受けるでしょう15。海外旅行者数がパンデミック前の水準に比べて依然として低いのは、主として航空会社のキャパシティが限られているためですが、航空料金の値上がりも需要に打撃を与えています。中国発の航空便のキャパシティは、2023年7月時点でパンデミック前の水準の51%にとどまっています16。タイやフィリピンなどは有名な観光地が多いことで定評があるため、これらの市場は入国者数が増えれば恩恵を受けるでしょう。

現地通貨建て債券市場が、金融の安定をサポート

アジア開発銀行の調査によると、現地通貨建て債券市場が拡大している地域は、金融市場のストレス時に自国通貨の下落幅が抑えられたことが明らかとなりました17。これらの地域では、外貨建ての短期借入れへの依存が低いことがその理由です。ストレス時に、市場は「ダブル・ミスマッチ」と呼ばれる状況に苦しむ可能性があります。ダブル・ミスマッチとは、外貨建てで短期資金を借り入れる一方、現地通貨建てで長期貸し出しを行うという、通貨と期間のミスマッチをさします。これは、アジアの多くの市場に影響を及ぼした1997/1998年の金融危機の大きな要因になりました。

現地通貨建て債券は、返済期間が長期にわたるプロジェクトのための長期資金の調達にも使われます。また、国内および地域の投資家の貯蓄の受け皿にもなります。歴史的に見て、適切な投資機会が乏しい場合、これらの貯蓄は海外に向かいます18。借り手が為替リスクにさらされていない点も、重要なメリットです。企業も短期の銀行ローンの代わりに、債券発行により資金を調達することができます。

全体として、アジアは現地通貨建て債券市場の発展を慎重に進めており、これは、金融の安定を促す一助となり、借り手と投資家に具体的な経済的恩恵をもたらすでしょう。

Related Insights