Skip to main content
インサイト

2022年のアジア通貨は、考えられていたより好調だったのか?

2022年はアジア通貨にとって厳しい年だったというのが一般的な認識ですが、それほど単純ではありません。アジア地域のパフォーマンスは、市場によってかなり異なっていました。

Asia Pacific Head of Fixed Income, Head of SSGA Singapore

2022年の通貨パフォーマンスを左右したのは米連邦準備制度理事会(FRB)の利上げです。利上げによって米ドルは当初上昇した後、年後半に弱含みました ―― 将来の利上げペースに関する予想が後退する中、投資家はインフレ抑制に必要となる金利のピークが低くなると見込みました1。2022年を通して、アジア通貨は市場固有の要因より、米ドルのパフォーマンスに影響されましたが、それでも、市場によってややばらつきがありました。

具体的にどう違っていたのか?

市場は通貨安に関して悲観的でしたが、パフォーマンスは驚くほどの底堅さを示しました。たとえばシンガポールドルなど、中には上昇した通貨もありました2

興味深いのは、米ドルが回復したにもかかわらず、人民元の下落はごく僅かにとどまったことです3。中国は自国通貨の混乱を避けるため、外貨準備を使って通貨価値を維持しました ―― その規模と経済力をもってすれば、それも可能でしょう。ただ、台湾や韓国のような小規模な市場には不可能でした。

アジアの中央銀行の多くは、FRBによる金融引き締めを受けて、利上げを実施しました。また、通貨の下落を滑らかにするため、そして、海外投資家がパニックに陥って資本を急速に引き揚げる、いわゆる資本逃避によって、市場の変動がさらに壊滅的なものに発展しないよう、外貨準備も利用しました。

円は、2022年に大幅に下落しました4。主因は、日銀がFRBに追随せず、利上げを実施しなかったことにあります。逆に、日銀は長期金利を低位に維持するプログラムを堅持し、量的緩和を継続しました。ただし、年末に日銀はこの姿勢を変化させ、長期金利の若干の上昇を容認しました。

なぜアジア通貨は以前より盤石になったのか?

アジア通貨の相対的な強さは、幾つかの要因で説明でき、これらが組み合わさった結果とも考えられます。地域の通貨市場は固定相場制(ペッグ制)から、中銀によってある程度変動要素が管理されてはいますが、変動相場制に概ね移行していました。そのため、通貨ペッグを「崩そう」とする投機筋の攻撃を受け難くなっています。1997年に通貨ペッグは、連動性(通貨リンク)の崩壊から巨額の利益を獲得しようとする投機的な市場参加者のターゲットとなりました。その代表例はタイで、1997年7月に米ドルとの通貨ペッグは崩壊し、タイバーツはその後4ヵ月で60%切り下げられました5。アジアの中央銀行が急激な通貨切り下げに慎重で消極的なのは、こうした経験があるからです。

外貨準備とデット・カバレッジ・レシオも、過去の景気循環の水準を上回っていました。これは、中央銀行が秩序ある通貨切り下げを遂行するための手段を増やすとともに、ある程度のプロテクションも提供しました。また、インドネシアのように、石炭など高騰する原材料を大量に輸出し、巨額の外貨収入を得て、自国通貨、ルピアへの下落圧力が抑制された国もみられます。

日常的な食品の価格上昇は多くの場合、社会問題になりますが、中央銀行は方針を変えることなく、国内の金利を引き上げ、通貨急落をどうにか回避しました。この断固たる行動は、経済の成熟化が進んでいる兆しであり、アジア地域が過去の危機から貴重な教訓を学んだ証拠です。

現地通貨建て債券の魅力

米ドル建て債券は、海外投資家の間では、現地通貨リスクが取り除かれていると考えられているため、現地通貨建て債券よりも概して人気があります。しかし、現地通貨建て債券の中には、発行企業が収入の大半を自国通貨建てで創出しているため、リスクが抑えられているケースもあります。これはキャッシュフローと利払いにミスマッチが生じる可能性が低いことを意味します。歴史的に見て、収入と債務の通貨が異なる企業は、デフォルトの回避に苦戦しています6。現地通貨建て債券を発行する相対的魅力を背景に、アジアでは2022年下半期に債券発行が大幅に増加しました7

2023年の見通し

今後もFRBの行動が市場の短期的なセンチメントを左右しますが、アジア債券市場の見通しは2023年下半期に向けて明るさを増しそうです。たとえばエネルギーや食品の価格下落でインフレ圧力が緩和すれば、さらなる利上げは抑制されるでしょう。アジア市場のほとんどはエネルギーの純輸入国であるため、価格の上昇はコストプッシュ・インフレに直結します。金利の引き上げは、通貨の価値を押し上げる以外、コストプッシュ・インフレの緩和にほとんど効果はありません。

金利を引き下げる、あるいは利上げペースを緩めれば、資金調達コストは低下し、利益が押し上げられ、投資を促進するため、経済成長は支えられるでしょう。同様に、中国が経済的、人的コストを最小限に抑えつつ、コロナ関連規制の撤廃を乗り切れば、経済成長は急速に上向き、その効果はアジア地域に広く波及するでしょう。歴史的にアジア通貨に付随してきたリスクは、過去の景気循環ほど、高くないことが2022年に実証されました。

この先、インフレ統計が中央銀行の行動を左右するでしょう。利上げ減速の兆候があれば、米ドルは下落を続ける可能性があり、アジア通貨の価値は押し上げられるでしょう。アジア債券への投資は、アジア経済の発展と成熟化の持続が生み出す、上昇余地を捉える機会を提供するかもしれません。

Related Articles