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尺には尺を – アジア全域における政策支援を分析

最近、中国の不動産セクターが厳しい状況に直面していますが、アジア地域全体の総じて明るい経済ニュースについて、立ち止まって考えてみる価値はあります。

Asia Pacific Head of Fixed Income, Head of SSGA Singapore

ここ数ヵ月で中国を拠点とする複数の大手不動産グループが厳しい状況に直面し、債務不履行に陥る不動産会社や債務返済期限の延長を求める企業が出ており、悲観的なニュースがヘッドラインを飾っています1。こうした動きは、この市場セグメントに根付く問題を反映するものであり、アジアの良好な経済環境とは切り離して考えることができます。たとえば、インフレは鈍化しており、現在、金利は多くの市場でしっかりと一服しており、この先引き下げられる可能性があります。

本稿ではまず、中国が打ち出した、的を絞った不動産セクターの支援策について検証します。さらに、アジアの他の地域に同様の措置が必要かどうかや、米国の金利動向がアジア地域の経済見通しに、どのように影響するのかについても考察します。

中国の不動産 – 的を絞ったアプローチ

不動産セクターは中国の経済活動の約4分の1を占めており、当然のことながら、債務問題が金融セクターに波及するとの懸念が高まっています2。政府は債務に苦しむ不動産市場からの打撃を抑え込む、あるいは限定するための措置を複数打ち出しました。

たとえば、住宅ローン金利は過去最低水準まで引き下げられ、初回住宅購入者向けに優遇ローンが導入されました3。南京市では住宅購入規制が撤廃され、現在は資格証明がなくとも住宅を購入できます。以前は、物件を購入できる場所や所有できる物件数が制限されていました。新築住宅に関する価格上限も撤廃される見通しで、デベロッパーは価格の引き上げや引き下げが可能となるため、市場の緊張を緩め、安定させるのに役立つでしょう。今後、中国の他の都市でも、価格規制の撤廃が見込まれます。こうした措置は、デベロッパーがより管理可能な水準まで、債務を削減するのに役立つでしょう。

投資家の間には最近の措置について、特に以前の支援策と比べて、タイミングが遅いのではないか、あるいは規模が不十分ではないかとの声もあります4。しかし、政府が段階的に措置を打ち出しているのは、介入に消極的だからではありません。むしろ、中国全体の債務水準を削減し、不動産市場が経済全体に及ぼす影響を着実に封じ込めるため、的を絞ったアプローチを取っているのです5

他の市場の不動産セクターに問題点は?

ベトナムも不動産セクターの問題に直面しています。ベトナムは、中国を除くと、アジア地域で過去数ヵ月間に政策金利を引き下げた唯一の市場です。また、ベトナム政府が腐敗防止措置を導入し、不動産会社間の土地の移転について調査を実施したため、デベロッパーがプロジェクトに必要な土地の完全な法的所有権を得られない可能性があるとの懸念が広がりました6。全般的には、ほとんどのアジア市場における不動産セクターは中国ほどには成長していないため、状況が反転しても、その規模や影響は小幅にとどまるでしょう。

中国の問題がアジア地域に与える影響とは?

主に間接的な影響にとどまります。中国の景気減速、あるいは慎重な消費者による消費パターンの変化に伴い、他のアジア市場からの商品やサービスに対する潜在的な需要が抑制される可能性があります。投資家センチメントへの影響は測定が難しいものの、アジア地域に対する熱狂は弱まりそうです。こうした反応は当然ですが、さらに分析した結果、投資に際しては、中国が直面する難題と、アジアの他の国や市場にある投資機会を分けて考えられることが示されました。

インフレが鈍化するなか、金利は据え置き

2023年8月2日に主要金利を0.25%引き上げたタイを除き、域内のその他諸国は概ね金利を据え置いています7。それを可能にしたのは、借入コストの上昇で投資や消費が圧迫されるなかで、インフレが鈍化したことによるものです。また、過去数四半期には、多くの市場で金利がかなり積極的に引き上げられました。

アジアにおける現地通貨建て国債のイールドカーブが2023年6月1日から2023年8月31日にかけて、総じて上方にシフトしたことも重要です8。アジア開発銀行は、2023年9月発行の「アジア債券モニター」で東アジアの新興国の現地通貨建て債券の発行残高は2023年6月末時点で、1年前から7.9%増加し、23兆1,000億米ドルとなったと報告しています。この残高は米国の債券市場の63.1%、EU20ヵ国の債券市場の114.2%に相当します9

米連邦準備制度理事会(FRB)の金利変更とアジアの債券市場

最近アジア諸国のほとんどで見られる金利据え置きの動きは、FRBの金利引き締めペースの減速を反映したものです。FRBはインフレを長期目標である2%近くまで引き下げる必要がありますが、労働市場の状況や海外の動向も意識しています。最新のFRB政策金利見通し「ドットプロット」は、FRBが金利は2025年に約3.5%、長期的には約2.5%にとどまると予想していることを示しています10

おそらくアジアのほとんどの中央銀行は、金利政策に関して、FRBに追随するとみられることから、地域の借入コストはこの先低下すると思われます。そうなれば消費と投資を押し上げ、地域の経済成長が活性化することにつながるでしょう。

全体として、投資家は中国の不動産セクターに影響を及ぼしている特定の問題に目配りしつつ、アジアの非不動産セクターの多様かつ魅力的な投資見通しを反映する可能性のある投資機会を逃さないようにすべきでしょう。

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