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アジアの国債 ― 嵐の中の避難場所?

債券市場が大幅に変動する中、投資家はますます安定性を求めるようになっています。アジアの国債はそれに応えてくれる可能性があります。


Asia Pacific Head of Fixed Income, Head of SSGA Singapore

市場の関心事は引き続きインフレであり、米連邦準備制度理事会(FRB)はインフレ退治に本気で取り組んでいます。3月に政策金利を0.25%引き上げたFRBは、5月に引き上げ幅を0.5%とし、それ以降の会合でも0.5%の利上げを連続して実施する可能性が高いことを示唆しました1。他の中央銀行も引き締めを行っており、多くの中銀がFRBに追随せざるを得ない状況になっています。

その結果、世界の債券市場は圧力にさらされ、利回りは軒並み大きく上昇しており、ブルームバーグ・グローバル総合インデックスの4月のトータルリターンは過去最低水準となりました2。利回り上昇はアセットアロケーションの変更や資本フローの変化につながるため、こうした環境もまた、ボラティリティの急激な上昇の要因となっています。

これは始まりに過ぎないのかもしれません。米国の最新のインフレ統計によるとインフレ率は8.5%から8.3%に僅かに低下しましたが、より大幅な低下を市場は予想していました3。つまり、FRBがさらに利上げを行う中、利回り、ひいてはボラティリティが短期的に上昇を続ける余地はまだ十分にあるということです。

債券投資家は安定性に軸足を置くべきか?

現在の状況からみて、債券投資家はより安定した資産に重点を移すことを検討するのが賢明かもしれません。とりわけマクロ経済の見通しが不透明な中、債券投資を完全に止めたくない、あるいは、より高リスクのハイ・イールド債券市場にシフトしてでもリターンを追求したいのであれば、なおさらです。

では、世界的なインフレとFRBの金融引き締めによって他の中央銀行が利上げを迫られる中、より高い安定性を求める債券投資家はどこに目を向ければよいのでしょうか? アジアの現地通貨建て国債は、検討する価値のあるサブ・アセットクラスの1つです。

インフレと経済のダイナミクスの違いが利上げのバッファーとなる

米国はパンデミックに対応して打ち出された数兆ドル規模の量的緩和策の恩恵を受けており、多くの国に比べて、インフレが上昇しているのは当然と言えるでしょう。これは政治的にも、大きな争点となっています。そのためFRBは他の中央銀行より、積極的に利上げを行ってきました。

アジアでもインフレは上昇しているものの、そのダイナミクスはかなり異なっています。第一に、インフレ上昇はそこまで顕著ではありません。東南アジアでは、3月のインフレ率は3.5%前後でした4。一方、韓国のインフレ率は10年ぶりの高水準とは言え、依然として4%台にとどまっており5、台湾のインフレ率は3.5%を下回る水準で推移しています6。中国では、コロナ禍による厳しいロックダウンでサプライチェーンが混乱する中、消費者物価指数は4月に2.1%上昇しましたが、生産者物価指数は低下しました7

第二に、経済のダイナミクスも異なります。アジア諸国の多くは、依然として輸出主導型です。つまり、FRBの引き締めサイクルで見込まれる通貨安が、プラスに働く可能性があるということです。一方、米国は輸入に依存しており、先ごろ貿易赤字が過去最大の1,098億ドルを記録しました8。利上げはドル高を促し、輸入物価の下落につながるため、インフレを緩和する効果があります。

これらの要因は利上げ圧力に抵抗するためのバッファーとなり、アジアの中央銀行に利上げを慎重に進める余地を与えます。中国のような経済大国は、さらに一歩踏み込むことが可能です。中国人民銀行は4月に政策金利を据え置いたものの、銀行に対する預金準備率を引き下げ、支援的な金融政策スタンスを引き続き示しました9

良好な需給要因

多くの債券投資家は、需給要因が市場に及ぼす影響を過小評価しています。このことは、ボラティリティからの避難先として、アジア現地通貨建て国債の信頼性をさらに高めています。欧州では、欧州中央銀行(ECB)がFRBよりかなりハト派的なスタンスを示しており、債券の供給は増加する見込みです。

例えば、マーストリヒト条約で定められた欧州連合(EU)の債務残高と財政赤字の上限は、加盟国がパンデミックと闘えるよう適用が一時停止されていますが、2023年1月に復活する予定であり、一部の加盟国がルールの緩和を求めています10

ロシア・ウクライナ戦争も、おそらく欧州の財政支出を拡大させます。国際通貨基金(IMF)は先般、供給ショックに対応するため、失業保険の増額や減税措置などの財政支出は「機動的に実施」すべきだと指摘しました。そしてIMFはこれが財政赤字の拡大につながることも認めつつ、重大なリスクが顕在化した場合には、経済を支えるために追加の財政政策が必要になる可能性があると公言しました11。 これらはすべて、ウクライナに対する直接の財政支援とは別のものです12

こうした財政赤字の拡大は債券の供給増加につながる可能性が高く、その結果、債券価格は需要と供給の法則に従って下落するでしょう。アジアにも独自の財政上の課題があるのは事実ですが、ロシア・ウクライナ戦争に起因する財政問題により、アジアの魅力は相対的に高まっています。

利回りだけが重要なわけではない

世界中の債券市場が価格低下圧力に直面する中、利回りを引き続き最重視するべきかどうか考える価値があります。米国債の利回りはリスクと比べると魅力的な水準にありますが、おそらく利回りは上昇を続けるでしょう。欧州でも、理由は大きく異なるものの、同様のダイナミクスが見られます。その上、利回りはアジアを下回っています。

一方、社債、ハイ・イールド銘柄商品、中南米の国債など、債券市場には他にも高い利回りを提供するセグメントがありますが、不確実性が高まる中、これらは単にリスクに見合わない可能性があります。したがって、アジアの国債はポートフォリオの理想的な分散先として、荒波にもまれる債券市場で、安定性を提供する避難場所になってくれるでしょう。


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