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アジア債券 — 2023年、この先に投資家を待ち受けるものとは?

2023年上半期は、米金利の動きと中国の経済再開に支配されました。アジアの現地通貨建て債券市場は、今後6ヵ月どのような要因に左右されるのでしょうか?

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Asia Pacific Head of Fixed Income, Head of SSGA Singapore

金利上昇の影響が表れ、米国のインフレ率は低下し始めました。これは、米連邦準備制度理事会(FRB)に対する利上げ継続圧力を弱めることから、投資家にとって歓迎すべきニュースです。2023年5月に米国の消費者物価指数(CPI)は、2021年3月以来の水準に低下しました1。ただ、ほとんどのFRB高官は追加利上げが必要になるとみているため、これは借入コストがピークをつけたことを意味するわけではありません2

アジアの方が利下げ余地は大きい

一方アジアに目を向けると、インフレは同じく緩和しています。ただ、欧米諸国に比べて全般的に低い水準からの低下となります3。そのためアジア地域の中央銀行の方が、利上げを停止し、さらに借入コスト引き下げる余地すらあります4。よって、不透明感は引き続き強いものの、アジアのほとんどの地域で、金融政策が緩和する、あるいはタカ派色が後退する見通しは2023年初めより高まっています。金利が横ばい、または低下し、加えて経済成長が堅調な市場では、現地通貨建て債券のパフォーマンスが好調となる環境が総じて生まれるでしょう。

国際通貨基金(IMF)は、アジアで企業借入れが増加している点について、負債の多い企業は金融政策引き締めの影響を受けやすくなっているとして、警鐘を鳴らしています。経済が成長しても、利払い額が借入コストを上回る可能性があります5。アジアの中央銀行は、この点を考慮しつつ、インフレ圧力を抑制する必要があり、慎重な舵取りが求められるでしょう。

アジア地域に米ドル下落の恩恵は?

2023年上半期のアジア通貨のパフォーマンスは、強弱まちまちでした。円、マレーシアリンギット、人民元は対米ドルで下落しました6。一方、インドネシアルピアは小幅上昇し、タイバーツとフィリピンペソはほぼ横ばいでした。FRBが利上げ終了のシグナルを発し、インフレ制圧に自信を示せば、米ドルの下落につながる可能性もあります。その結果、通貨が上昇している市場では、現地通貨建て債券の価格は押し上げられるでしょう7

サプライチェーンの移転が、アジア市場の追い風となる可能性も

中国は依然としてアジアの主要な製品輸出国ですが、企業は事業の地域分散を目指しており、このところ事業環境は変化しています。そのきっかけの1つは、中国でロックダウンが長期化する中で起きたサプライチェーンの混乱でした。また、台湾の半導体メーカーなど8、米中貿易摩擦の過熱を受けて、こうしたシフトを進めている企業もあります。さらに、中国の労働コストが上昇している点も、企業が生産拠点の一部を人件費の安い市場に移す経済的な理由となっています9

外貨準備が回復

ほとんどのアジア市場ではパンデミック中に外貨準備が減少しましたが、その大半ではここ数ヵ月間安定しており、シンガポールなど一部の国の外貨準備は大幅に増加しています10。投資家や格付け機関は外貨準備をリスクの指標と見なすことが多く、数値が高いと好感されます11

アジア開発銀行は、多くのアジア市場で経済成長が税収を押し上げているため、財政収支が改善しつつあると指摘しています。同時に、新型コロナウイルス対応の緊急支援策や価格統制の解除は、政府支出が現在減少していることを意味します12。全般的に、財政赤字が縮小している市場、あるいは急増していない市場では、債券投資家の信頼感も高まるとみられます。

グリーンボンドへの投資意欲増大

アジア市場ではグリーンボンドやサステナブルボンドの発行見通しも明るく、成長が見込まれます。格付け機関のS&Pグローバルは、アジア太平洋地域におけるエシカル債券の発行額は2023年に2,400億米ドルと、2022年から20%増加すると予想しています13。地域別では、中国と韓国はインドネシアやマレーシアに比べて発行量が多く、現在のところ、地域全体では差はあるものの、いずれの市場もある程度の成長が見込まれます。

アジアの現地通貨建て債券に明るい見通し

2023年下半期にはFRBがインフレ抑制を目指して金利をさらに引き上げるリスクが、ややあります。これは世界の景気減速の引き金となる可能性もあり、そうなればアジア市場も完全に無傷ではいられないでしょう。こうしたリスクはあるものの、見通しは引き続き明るく、債券投資家が使用する多くの指標は適切な方向に進んでいます。

パンデミックによる経済的混乱への対応、時にアジア市場のほとんどが見せた底堅さは、金融市場や規制が成熟度を増している証しです。こうした慎重な経済運営のおかげで、アジア地域の現地通貨建て債券に対する信頼感は下支えされています。

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