世界経済の先行きは依然として不透明ですが、アジアのファンダメンタルズとその見通しは強固であり、欧米諸国よりもはるかに優れています。
国際通貨基金(IMF)は、アジアの2023年の経済成長率が4.6%となり、世界の経済成長の70%近くを占めると予測しています1。そのため、債券投資家は短期的な課題のさらに先に目を向けることで、コロナ禍とその後の混乱を巧みに乗り越えてきた、この地域の潜在的な投資機会を捉えることができるかもしれません。
パンデミックに伴う多大な社会的コストにもかかわらず、アジア経済は危機の間も予想を上回る良好なパフォーマンスを収めました。これは、各国の政府と規制当局が自国の経済運営を改善し、世界的なショックから自国経済を守るために、たゆまぬ努力を続けた結果だと思われます。この恩恵は、先進国と比べて堅調な経済成長と、相対的に低いインフレ率という形で現れています。実際、アジア開発銀行(ADB)は、地域全体のインフレ率が2024年に3.3%まで低下すると予想しています2。
アジア通貨も堅実な経済運営による恩恵を受けており、過去の世界的ショックの際に経験したような困難を免れています。
アジアの銀行は、欧米の銀行セクターをめぐる混乱の影響をそれほど受けていません。ADBは、米国の中規模銀行で起こった問題が引き金となって、より重大な金融危機に発展することはないとみています3。アジアのほとんどの金融機関は、米国の中規模銀行を破綻に追い込んだのと同様の問題は抱えておらず、連鎖的影響が及ぶとしても限定的です。
中国の不動産セクターも、投資家にとって長年の懸念材料ですが、最近になって価格が安定し、信頼感が回復しつつある兆候が示されています4。
ウクライナ戦争はエネルギー価格の高騰を招きましたが、ここにきて流れが反転し、価格は戦争前の水準まで下落しています。戦争を受けて、欧米諸国がロシアからのエネルギー輸入を禁止したため、ロシア産原油の一部が中国やインドを中心とした一部のアジア市場に、1バレル=60ドルを上限価格として流入しました5。アジアの大半の国はエネルギー純輸入国であることから、エネルギー価格の下落はさらなる追い風になります。
また、戦争の影響で農産物の価格も上昇し、輸出を主力とする市場にとって恩恵となっただけでなく、エネルギー価格の上昇による負の影響を軽減することもできました。東欧での軍事衝突は今も続いており、下振れリスクは残っています。しかし、エネルギー価格が下落し続ければ、多くのアジア経済にとって好材料となるでしょう。
日本や韓国では出生率が極めて低くなっていますが、他のアジア諸国の出生率は近年低下しているとはいえ、欧米諸国を上回っています。人口が増えれば労働力が増加し、消費財やサービスの需要が高まる可能性があるため、高い出生率は経済成長を下支えします。逆に、先進諸国で見られる出生率の低下と人口の高齢化は、経済成長のブレーキになる可能性があります。
注目点として、国連は最近、インドの人口が中国を上回ったとの推計を発表しました6。しかし、長期的に見れば、インドも豊かになるにつれて出生率は低下すると予想されます7。
今後、インドや中国ではアジア地域全体からの輸入が増加するとみられ、先進諸国からの需要低下を相殺すると思われます8。
アジア諸国の近代化が進むにつれて、ハイテクセクターの重要性はますます高まると思われます。特に、中国は自国のハイテク企業の成長を促進しています。これは、国家安全保障上の懸念から、中国への先端技術の輸出を制限しようとする欧米諸国の動きに対抗するものです9。
また、アジアで急増する中産階級が高級品や質の高い教育・医療サービスを求める中、消費関連の企業も恩恵を受けるとみられます10。
一方で、コモディティ輸出は、複数の国にとって今後も不可欠な外貨獲得源となるでしょう。
発行面では、アジアはグリーンボンドセクターが活発で、企業や政府の発行体が気候関連ファクターを企業活動や公共政策に組み込む動きが高まっています。この勢いを後押ししているのが、ESG報告の義務化を進めるアジアの規制当局の動きや、自国の資本市場を多様化させたい政府の意向です。
こうしたことから、アジアの経済成長見通しは良好であり、過去数十年に見られたほどのペースではないにせよ、米国や大半の欧州諸国と比べると力強い成長が見込まれます。
IMFは、新興・途上国アジアの2024年の実質GDP成長率を5.1%、これに対して先進国全体はわずか1.4%と予想しています11。この明らかな違いから、グローバル債券市場へのエクスポージャー分散を目指す投資家にとって、アジアは魅力的な市場となっています。