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アジア債券 – 地域の推進力と機会を評価する

アジアの主要債券市場でイベントが起きると、投資家の注目が集中し、他の地域の動向に目がいかなくなることがあります。そこで、アジア地域全体の情勢に着目してみます。

Asia Pacific Head of Fixed Income, Head of SSGA Singapore

いつの時代も、話題の中心となる債券市場は存在します。欧州ではドイツ、フランス、英国、アジアでは中国、香港、シンガポールがニュースの主役です。しかし、こうした注目市場のストーリーが、それほど目立たない国や地域にも影を落とすことがあります。

利回り変動の原動力

すべての債券に当てはまることですが、リスクが高ければ高いほど、潜在的な利回りは高くなります。リスクは見る人(あるいは債券保有者)次第であり、例えば、現地通貨建ての国債は、通常は返済されるため、信用面だけで判断できるものではありません。

フィリピンはその良い例で、投資家は将来インフレ率が上昇するかもしれないと考え、比較的高い利回りを期待してフィリピン国債を保有します。インフレ率が上昇すれば、フィリピンペソは米ドルなどの主要通貨に対して下落する可能性があります。本稿執筆時点で、10年物フィリピン国債の利回りは5%を超えていますが、マレーシアの10年物国債の利回りは4%未満です1

市場リスクを評価する

投資家はしばしば、市場の経常収支に着目します。これは、その国がどれだけの歳入を得て、どれだけ歳出したかを示す指標であり、究極のところ、歳出が歳入を永久に上回り続けることはありません。経常収支が黒字であることは良い兆候ですが、輸出や輸入の変化に伴って、経常収支は月によって変動します。インドネシアは2022年に、コモディティの輸出価格が堅調だったため、大幅な経常黒字を記録し2、国内総生産(GDP)比では2009年以来の大幅黒字となりました。また、輸出の急増により、中国も2022年にGDP比2.3%の経常黒字を達成し、14年ぶりの高水準となりました3

市場参加者が注目するもう1つの要素は、政府債務の対GDP比です。これは、政府が賢明な歳出を行い、効率的に徴税して歳入を最大化するよう促すものです。政府はGDP成長を促進し、政府債務のGDP比を押し下げようとします。

東南アジアでは、2021年の政府債務のGDP比はカンボジアの35.88%からマレーシアの63.4%まで幅があります。世界ランキングではそれぞれ137位と74位に位置しています。これらの数字は特別に高いわけではなく、地域の慎重さを表しています。

一方で、特有の状況を示す市場もあります。シンガポールは政府債務のGDP比が極めて高く、世界ランク6位となっていますが、内容を掘り下げて見ると、政府は負債による収入を投資に充てており、資産が負債を大きく上回っています4

見通しは良好だが、一様ではない

アジアの先進国は、経済的に発展が遅れている国と比べて、経済成長率が低くなることが予想されます。好例がシンガポールとベトナムです。国際通貨基金(IMF)は2023年4月に発表した世界経済見通しの中で、ベトナムの2024年の実質GDP成長率が6.9%と予想されるのに対し、シンガポールはわずか2.1%と予想しています5。これは、ベトナム経済が好調でシンガポール経済が弱いということではなく、両国の経済発展の段階が異なることを反映しているのです。

人当たりGDPに見るアジアの多様性

アジアの市場では、経済発展の度合いによって、豊かさはさまざまです。これは、GDPを人口で割った1人当たりGDPから見ることができます。

IMFは、2023年の世界の1人当たりGDPを1万3,440ドルと予想しています。アジアは、市場によって大きなばらつきがあります。例えば、香港の1人当たりGDPは5万2,430ドル、中国本土は1万3,720ドル、タイは8,180ドルとなっています6

安定性と回復力

アジアの債券市場が、過去の経済危機からどれほど発展してきたかを示す証拠として、2023年上半期に米国と欧州の銀行セクターで問題が発生した際、コメンテーターは主要債券市場の混乱から逃れるには、アジアの新興市場債券が優れた避難先になると指摘しました。アジアの新興市場債券は(信用リスクが低く)返済が行われ、アジア地域は全体的にインフレも緩やかな水準にあります7

異なる経済見通し

欧米の債券市場からの分散を目指す投資家にとって、アジアは資本、ビジネス、産業における歴史的な強みではなく、人口動態による追い風や急速に進歩する技術力を背景に、異なる見通しを提供します。

地域の経済発展が、スムーズで予測可能な道筋をたどることはめったにありません。むしろ、世界経済や国内で起こるイベントによって方向が左右され、起伏に富んだ道筋となることが多いでしょう。しかし、このような不確実性は、投資家に潜在的なチャンスをもたらします。アジア市場の中でも一部の現地通貨建て国債は、こうした経済的機会にアクセスする魅力的な方法となり得ます。

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