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アジア債券からの資金流出 – 潮流は変わるのか?

アジア債券からの資金流出が続き、多くの新興国市場がディストレストと見なされる水準に陥るリスクがある中で、潮流に変化の兆しが見えています。

Asia Pacific Head of Fixed Income, Head of SSGA Singapore

アジアや新興国市場からの海外資金の流出は、今年繰り返し浮上してきたテーマです。2022年6月末までの6ヵ月間で、市場参加者は新興国債券ファンドから500億米ドルの資金を引き揚げました1。また、6月だけで、インドネシア、タイ、マレーシア、韓国、インドの債券から50億米ドル超が流出しています2

こうした中、2022年7月末に米連邦準備制度理事会(FRB)は75ベーシス・ポイント(bp)の利上げを実施し3、さらに追加の大幅利上げを示唆していますが4、それにもかかわらず、潮流が変化している可能性があります。

米国債利回りの上昇と利上げに足並みのズレ

資金流出を促してきた主な要因の1つは、米国債利回りの上昇です。追加利上げが見込まれるため、利回りの上昇と資金流出がさらに加速する可能性もあります。しかし、FRBの利上げパターンと米国10年国債利回りを比較してみると、両者は必ずしも足並みを揃えていないことが分かります。

たとえば、米国10年国債利回りが年初来最高水準である3.48%を付けたのは2022年6月14日で5、FRBが75bpの利上げを実施した7月27日の1ヵ月以上も前のことです。実際、米国10年国債利回りは7月27日には2.73%と、6月半ばのピークを75bp下回る水準まで低下しました。

フェデラル・ファンド(FF)金利は、米国債利回りに影響を及ぼす要因の1つにすぎません。市場は、ほかにも、景気後退リスク、インフレ期待、FRBのバランスシートの規模などの要因も反映しています。米景気減速、インフレ期待の低下、FRBのバランスシートの縮小といった要因はいずれも、利上げの継続にもかかわらず、米国債利回りがピークを付けたという見方を裏付けています。

アジア通貨に大幅な上昇余地

米国債利回りの上昇ペースは、FF金利の上昇ペースと必ずしも一致していないのと同様に、米ドルの上昇とも足並みを揃えていません。今年、「キング・ドル」という言葉が流行したように、米ドルの上昇を受けて他の中央銀行は利上げを強いられ、インフレを輸入し続けてきました ―― あるいはそのリスクにさらされています。

ドル指数によると、ドルはFRBによる利上げの数週間前の2022年7月15日6に最高水準を更新しています。注目すべきは、多くのアジア通貨がFRBの7月の利上げを受けて上昇したことです7。これは米ドル高の影響でリターンが悪化していた現地通貨建て債券に、プラスとなりました。

米インフレ減速は米金利のピークが近い可能性を示唆

FRBは年内利上げを継続するとみられますが、金利は当初の予想より早くピークに達する可能性があります。2022年7月の利上げ直後に、市場は金利がピークを付けるタイミングが早まることを織り込んだようです8

こうしたシナリオを支えてきたのが2022年7月の米消費者物価データで、物価の上昇ペースはコンセンサスの予想以上に緩和し、前月比で横ばいにとどまりました9

アジアの力強い経済成長

アジアの相対的に力強い経済成長も、潮流が変化しつつあることを示しています。第2四半期の国内総生産(GDP)統計によると、マレーシア10、インドネシア11、フィリピン12、韓国13、台湾14は力強い成長を見せました。中国のGDP成長率は大幅に減速しましたが15、主因は経済のファンダメンタルズではなく、ゼロコロナ政策とみられます。

これと対照的に、米国のGDPは債券、2四半期連続でマイナス成長となりました16。政策当局は「Rワード」を口にすることを頑なに避けていますが、米国が、リセッション入りの指標として広く認められている基準を正式に満たしているのは紛れもない事実です。

さらに、アジアと対照的なのは、米国だけではありません。他の新興国もまた、その多くは経済に底堅さが見られず、むしろ正反対の状況にあります。

多くが信用力の悪化に直面する新興国市場では、2,500億米ドルを超える債券がディストレスト水準で取引されており、デフォルトの連鎖に発展する恐れがあります17。スリランカはその最初のきっかけに過ぎなかった可能性もあり、次はエルサルバドル、ガーナ、エジプト、チュニジア、パキスタンかもしれません。

この先2022年終盤にかけて、この格差はさらに顕著となる可能性もあります ― そうなればグローバル投資家は力強さを増すアジア諸国の債券に、再びシフトするかもしれません。

潮流は既に変わり始めているのでしょうか?

ここまで、アジア債券市場、特に現地通貨建て国債からの資金流出が、近い将来、反転する可能性について検証してきました。しかしそうした動きが既に起きている兆候があります。2022年8月最初の10日間に、グローバル投資家は韓国債券を17.1億米ドル、インドネシア債券を7.21億米ドル、それぞれ買い越しました18

上述したように、他の要因が作用し始めれば、この僅かな流入が洪水へと発展する可能性も見えてくるでしょう。

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