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2023年のアジア債券市場は厳しい状況に

2023年は各国中央銀行がインフレ抑制に注力した結果、金利が上昇し、アジアの債券利回りも上昇しました。

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Asia Pacific Head of Fixed Income, Head of SSGA Singapore

2023年にアジアの債券価格にとって大きな逆風となったのは、米国債券利回りの着実な上昇とドル高という外的影響でした。米連邦準備制度理事会(FRB)が高インフレを抑えるために金利を引き上げたことで、米国債利回りは上昇しました。

こうした外的な圧力に対して、アジアの中央銀行の動きは一様ではありませんでした。経済規模の小さい国の政策当局には、自国通貨の為替レートを支えるために、FRBに追随して金利を引き上げるか維持するしか選択肢がありませんでした。さもなければ、各国通貨の急激な下落を招いていたはずです。急激な通貨安は投資家のパニックを引き起こし、外国人投資家が一斉に資本を引き揚げる恐れがありました。

中国の回復は予想以上に弱い

中国は、その経済規模や経済力、そしてコロナ禍からの景気回復が終盤にあることから、逆に利下げを実施して経済を刺激し、多額の負債を抱える各セクターを支援する道を選択しました。

2023年の初頭時点で、中国はパンデミックによるロックダウンから抜け出し、堅調な景気回復が期待されていました。しかし、景気回復は多くの投資家が予想していたよりも、力強さに欠けるものでした。

中国の複数の不動産開発業者が抱える、高水準の債務に関連する問題は、投資家と消費者の両方のセンチメントにマイナスの影響を与えました1。その後、不動産セクターに対する政策支援の効果が徐々に現れましたが、一部の不動産開発業者は多額の負債を抱えており、おそらく再編が必要になると思われます。他のほとんどのアジア市場では、不動産開発セクターはそれほどの苦境に陥っていません2

中国に話を戻すと、消費者需要の見通しは、他のほとんどのアジア市場と比べて、ややネガティブとなっています。これは、不動産セクターの問題だけでなく、若年層の失業率が相対的に高いことや消費者信頼感が予想よりも弱いことも一因となっています3。

政府は、財政赤字を拡大させてでも経済成長を支える対策を取っており、財政赤字の対GDP比が上限の3%を超えることも辞さない構えです4。こうした経済の不確実性にもかかわらず、国際通貨基金(IMF)は2023年10月に発表した世界経済見通しで、中国の2023年の経済成長率は依然として5%前後のペースを維持しているとの見方を示しました。この成長率は、世界基準から考えると健全な水準です5

中央銀行によるインフレ抑制対策が、国債利回りを押し上げている

世界各国の中央銀行が、インフレを抑制するために利上げを実施しています。その結果、国債利回りは2023年の大半を通じて上昇しました。しかし最近では、FRBの利上げサイクルが終わりに近づいているとの投資家の見通しから、利回りはやや低下しています6。アジアの国々では、米国で起きているような労働市場の逼迫よりも、エネルギー価格の上昇がインフレの原動力となりました。物価上昇との戦いは勝利を収めたとみられ、IMFは、世界のインフレ率が2022年の8.7%から2023年には6.9%に低下すると予測しています7

前述のように、FRBが利上げを行い、それに付随して債券利回りが上昇したため、米ドルは2023年を通じて、他の多くのアジア通貨に対して上昇しました8。国債利回りが上昇すると、株式など他の投資の相対的な魅力が低下するだけでなく、企業にとっては、融資や社債発行でより多くの利息を支払わなければならなくなり、財務状況に直接的影響が及びます。これが企業収益の足を引っ張り、経済全体の需要水準が落ち込めば、物価に下落圧力がかかり、インフレ率の低下につながります。中央銀行が利上げによって期待しているのは、こうした圧力なのです。

2024年に目を向けると、アジアの多くの中央銀行は利下げに転じると思われます。今後数ヵ月におけるFRBの金利決定は、多くのアジア市場の今後の借り入れコストを左右する、最も重要な要因になるとみられます。

エネルギー価格はアジアにおける変動要因

一部の例外を除き、ほとんどのアジア市場はエネルギー輸入に依存しているため、エネルギー価格の下落は各国に経済的恩恵をもたらします。もう1つのマイナスは、エネルギー価格の高騰はインフレ率上昇に直結し、中央銀行は必要以上に高金利を維持せざるを得なくなります。世界銀行によると、原油価格は2024年に横ばい、またはわずかに下落する見通しです9。こうした好材料が予想されるにもかかわらず、地政学的状況は引き続き不安定で、イスラエルとガザの情勢が示すように、紛争は何の前触れもなく、突然勃発することがあります。

アジア債券の見通しは、世界の金利次第

ほとんどの地域でインフレ見通しが着実に改善していることから、一部の市場では金利が低下する可能性があると当社は考えています。ただし、金利低下が起こるとしても、インフレが容認できる軌道にあり、すぐに再燃する可能性は低いとFRBが納得した後になると思われます。

そのため、アジア債券の投資家は2024年について慎重に楽観視する一方で、金利が低下し始める兆しがないか、FRBの動きを注視する必要があります。

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